とりこ)” の例文
建文帝の事、得る有る無し。しかれども諸番国しょばんこくの使者したがって朝見し、各々おのおのその方物ほうぶつこうす。三仏斉国さんぶつせいこく酋長しゅうちょうとりことして献ず。帝おおいよろこぶ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これらの要素が相寄って、次第次第に彼女をある慾望のとりこにしてしまったのであった。もう今では、夜も昼も彼女の想念には一つことしかない。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そしてわたしは、彼女に見つめられるが早いか、たちまち頭から足の先まで、すっかり彼女のとりこになってしまうのだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おまえは自分でそそのかしてとりこにした人間が、自由意志でおまえについて来るために、人間に自由の愛を求めたのだ。
ところが今では彼の想像力もそれに加わるようになった、というよりも、それのとりこになってしまった。
千曳ちびきの大岩を転がすなどは朝飯前の仕事である。由良が浜の沖の海賊は千人ばかり一時にとりこになつた。天の橋立の讐打ちの時には二千五百人の大軍を斬り崩してゐる。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
假に義務があるとしても思想をことにしてゐるのであるから、壓制のとりことなツてゐることは出來ない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
レッシングの「とりこ」、アンデルセンの「即興詩人」、その他の名訳をつぎつぎに紹介せられたことも、当時の文学の標準を高める上に、少からぬ影響を多くの作者に与えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然し、もしもあの人の心にそんな根性が爪のあかほどでも有つたらば、自分は潔くこの縁は切つて了ふ。立派に切つて見せる! 自分は愛情のとりことはなつても、だ奴隷になる気は無い。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それからというもの、かれは本能の獣性のとりことなって、かれゆくままに行動した。
愛とはなんであるかを思い知った最初のあの幸福だった日からこのかた、私はすっかり希望と嫉妬のとりことなって、一日として、ひと時として、それから解放されたことはございません。
調伊企儺ツキノイキナの妻大葉子オホバコも神憑りする女として、部将として従軍して、とりこになったものと考えられる。神功皇后などは明らかに、高級巫女なるがゆえに、君主とも、総大将ともなられたのである。
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
天兵一下、千里流血、君は頡利のとりこに同じく、国は高麗の続とならむ。方今聖度汪洋、爾が狂悖を恕す。急に宣しく過を悔い、歳事を勤修し、誅戮を取りて四の笑となるなかれ。爾其れ三思せよ。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「概念」を排する中西氏が「概念」のとりことなつたわけである。
中西氏に答う (旧字新仮名) / 平林初之輔(著)
押し退ける勇気がなかったように、女のとりこになるのだった。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこで君は己のとりこになっているわけだね。
途端にまたもやあの女の蕩かすような魅力のとりこになってしまうだろうことは、彼もちゃんと心得ていたのである。
わたしは、むせきに泣きもしなかったし、絶望のとりこにもならなかった。また、そんな事がいったいいつ、どんな風に起ったのかと自問してみるでもなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
どこの何者かも知らない婦人とのロマンスだのという、誘惑的な想念がたちまち彼をとりこにしてしまった。
ただ工兵にさえ出合わなければ、大将をもとりこに出来る役である。保吉は勿論もちろん得意だった。が、まろまろとふとった小栗は任命の終るか終らないのに、工兵になる不平を訴え出した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宗垣そうえん陳性善ちんせいぜん彭与明ほうよめいは死し、何福はのがれ走り、陳暉ちんき平安へいあん馬溥ばふ徐真じょしん孫晟そんせい王貴おうき等、皆とらえらる。平安のとりことなるや、燕の軍中歓呼して地を動かす。曰く、吾等われらこれより安きをんと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不意打を喰はせてとりこにするのだが、あとの連中は先へ來てゐる自分の仲間が此樣な災難に逢ツてゐるとは知らない。で、あとから後から飛んで來るのを、かたぱしから叩落して、螢籠の中へ入れる。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
これをとりこにしたさに父親に少しばかりの金を貸したのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「それではあなたはきのふ仮装舞踏にお出でしたか。一体僕は舞踏会には行かない流義です。それにゆうべはとりこになつてゐる人の所にゐなくてはならなかつたのです。」
彼女が今日きょう明日あすにも不純な情慾のとりこになるのをとどめる力はあるまいと思い、自分はもう酔いどれ女のように踏み堪える力はないのだと思い、不安な気持になるのだった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
更に「馬上縁」の女主人公梨花を見れば彼女の愛する少年将軍を馬上にとりこにするばかりではない。彼の妻にすまぬと言ふのを無理に結婚してしまふのである。胡適こてき氏はわたしにかう言つた。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その妻子をあわせてとりことして献じ、おおいに南西諸国にみんの威を揚げ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「嘘をついていらあ。この前に大将をとりこにしたのだってあたいじゃないか?」
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つまり、これらのいくじない反逆者の良心を、彼らの幸福のため永久に征服して、とりこにすることのできる力は、この地上にたった三つよりないのだ。その力というのは、奇跡と神秘と政権である。
更に「馬上縁」の女主人公梨花を見れば彼女の愛する少年将軍を馬上にとりこにするばかりではない。彼の妻にすまぬと言うのを無理に結婚してしまうのである。胡適こてき氏はわたしにこう言った。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしペンを持つてゐる時にはお前のとりこになるかも知れない。
闇中問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
五十 とりこ
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)