似気にげ)” の例文
旧字:似氣
官兵衛は、師のことばへ、耳を向けただけで、御着ごちゃくの方をふりかえっていた。彼に似気にげなく、何かただならない顔色を現わしている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこで工面したか、ヨレヨレの素あわせに、ほおかむり、クマのようなヒゲだけはそり落して柄に似気にげなく人なつっこい声です。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
だから長押なげしにかけてあった槍を取って、酒気に駆られて、ひとりで表へ飛び出したのは年寄に似気にげなきことでした。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俳諧はいかい季寄きよせ雪車そりを冬とするはあやまれり。さればとて雪中の物なれば春のには似気にげなし。古哥にも多くは冬によめり、じつにはたがふとも冬として可なり。
比丘尼びくに前名ぜんみょうを熊と申す女に似気にげない放蕩無頼を致しました悪婆あくばでございまするが、今はもう改心致しまして、頭髪あたまり落し、鼠の着物に腰衣を着け
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その博士や土方にまじつて毎朝大学の構内を通る十歳とをばかりの子供がある。子供に似気にげなくいつも歩きながらも書物ほんを読んでゐるので、よくそれを見掛みかける男が
ト高い男は顔に似気にげなく微笑を含み、さて失敬の挨拶あいさつも手軽るく、別れて独り小川町おがわまちの方へ参る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
翁は漢学者に似気にげない開けた人で、才能を認めると年齢を忘れて少しも先輩ぶらずに対等に遇したから、さらぬだに初対面の無礼を悔いていたから早速寒月と同道して露伴を訪問した。
露伴の出世咄 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
モンテ・カルロで受けた心のいたみもようやくえたので、面構つらがまえに似気にげなく心の優しい部落の面々に別れを告げ、固く再来を約し、勇ましいタラノ音頭に送られて谷を出発したのは六月の始め。
と、彼に似気にげない謙虚で言った。——が尊氏は、多年つちかっていた沃野よくや鎌入かまいれをしたまでのこととし、すぐ、別なむねを言いだしていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、またしてもこの男にも似気にげなく、二の足、三の足を踏んで立ちすくんだかと見るほどに、たじろいで、やっと身を支え得たかのように突立ちました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俳諧はいかい季寄きよせ雪車そりを冬とするはあやまれり。さればとて雪中の物なれば春のには似気にげなし。古哥にも多くは冬によめり、じつにはたがふとも冬として可なり。
せがれの命を助けるのまで、金ずくで済ませようといった、成金根性がしゃくにさわったものか、銭形平次は日頃に似気にげない奥歯に物の挟まった物の言いようをします。
「なるほど、こいつア企らんだ。よく見えるのをわざわざ烏賊汁なんぞ塗りつけ、桜場になすりつけるために、逆手の逆手で自分の胡籙の矢をつかうなんてのはつら似気にげない土性ッ骨の太いやつだ」
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「何が忠義か。——敵の捕虜となって生き恥さらすことが。下野どの、おぬしにも、似気にげないおことばだぞ。すこしどうかしたのではないか」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かお似気にげない愛嬌笑いを試みた時に、霞のように棚曳いていた細い眉と目が、一時にドヨみ渡りました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これらの事雪譜の名には似気にげなきべんなれど本文小千谷をぢやのはなしにおもひいだしたれば人の話柄わへいしるせり。
「今となって、そんな事を言うのは、爺さんにも似気にげないじゃないか」
不意に、床下から呼ぶ者があるので、銀五郎はぎょッとしたが、すぐに、自分にも似気にげないおびえざまを恥じて、「誰だ」と、少し、身をかがめた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乞食こつじきのやうなるすがたには似気にげなきことばのおぼつかなしと思ひながら、短尺たんざくすゞりばこいだしければ
それでこの男には似気にげなく後ろへさがりながら、「やい、裸虫、ものになっちゃあいねえぞ」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吉住求馬は、若いに似気にげなく気が廻ります。
病人か女のような弱々しい姿に似気にげなく、死にもの狂いに抵抗し、味方の兵を、八、九人まで斬りつづけました
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これらの事雪譜の名には似気にげなきべんなれど本文小千谷をぢやのはなしにおもひいだしたれば人の話柄わへいしるせり。
七兵衛が立去ったあとで、神尾主膳は、なんだか平生には似気にげない心持になりました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ガラッ八は日頃に似気にげなく調べが届きます。
乞食こつじきのやうなるすがたには似気にげなきことばのおぼつかなしと思ひながら、短尺たんざくすゞりばこいだしければ
どうにも融通ゆうずうのきかねえ人間だった。——それにひきかえ、この三蔵は、親に似気にげなき天晴あっぱれ者と、きのうも直々、池田入道勝入さまから、お褒めのことばを頂戴し……さ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒を飲むこと薬を飲むようにしているのは、いつもに似気にげなき様子であります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何とも、会いとうない」やむを得ず民部は退がってゆくのであったが、いつに似気にげないこともあるものだと思った。客に接するのにこういうわがままなどいったことのない範宴である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お君は日頃に似気にげなく争いました。お銀様はほとんど狂気のていで写真をらじとしました。一枚の写真を争う両人ふたりは、ほとんど他目よそめからは組打ちをしているほどの烈しさで揉み合いました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「関興にも似気にげないではないか」と、馬岱はかえってその言をわら
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)