事毎ことごと)” の例文
さもなくとも何か知ら機嫌が悪くて、事毎ことごとに難癖をつける。まごまごすると烈火のように爆発するなぞいう難物があります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それと同時に僕のことを、彼等は「憤慨居士ふんがいこじ」とも称しているそうな。けだし気に喰わぬことがあれば、事毎ことごとに憤慨する。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
常並つねなみの人のうむには唾液つばしるを用ふれども、ちゞみの紵績をうみには茶碗ちやわんやうの物に水をたくはひてこれをもちふ。事毎ことごとてあらひ座をきよめてこれをなすなり。
事毎ことごとに水に縁のある所を見ると、兇賊は舟を根城ねじろとして巧みに其筋そのすじの眼をくらましているのではないかと、その方面に厳重なる捜査が開始される模様である。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
事毎ことごとにつけて朝鮮人の悪口を学問的な言葉で並べたて、口癖のように、あ、あれを見て安心した等と呟く。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
事毎ことごとに身のおちぶれを感ずるけれども、しかし、いま苦しいのは、そんな事よりも、さらにさし迫った、この世のひとの妻として、何よりもつらいる事なのです。
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
若し凡人は捨て去れ、聖道ならば取れという風に心を用いるならば、事毎ことごとに分別が生ずる。さかしらな分別によって是非判断するなどどうして真の坐禅といえよう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
お銀様自身は事毎ことごとに弁信に向って、自分の形相の、悪鬼外道げどうよりも怖ろしいことを説いて、それをえんずる度毎に、例の瞋恚しんいのほむらというものに油が加わることを
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今のように事毎ことごとに責任者を想像して、何万人の怨みを背負わせる様にはなって居なかったが、あまり道知らずに、野方図のほうずになって行く世間がくちおしくてならなかった。
花幾年 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
勘次かんじほとんど事毎ことごと冷笑れいせうまなこもつられてるのであつたがしかしそれがいや感情かんじやうかれあたへるよりも、かれかれふところ幾分いくぶん餘裕よゆうしやうじてたことがすべての不滿ふまんつぐなうてなほあまりあることであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼は、事毎ことごとに興奮した。隣屋敷まで聞えそうな声で、わめき立てた事も一再ではない。刀架かたなかけの刀に手のかかった事も、度々ある。そう云う時の彼はほとんど誰の眼にも、別人のようになってしまう。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
云う事毎ことごとに符合しているので、市郎も巡査も同時に叫んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
事毎ことごとにそう言って乳母をたしなめるのでした。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「暗殺の酒場キヤバレエ」へ初めて来た人は事毎ことごとに驚く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼は事毎ことごとに驚きを倍加して来たのであるが、この悪魔の最後の演技に至っては驚き以上のものであった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
婦は又「毎日人の米をふんだくる」と事毎ことごとにつけて悪罵するではないか。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
事毎ことごとに仕事の邪魔立てをする文代が、憎くて仕様がないのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)