上流かみ)” の例文
魚がこんどはそこら中の黄金きんの光をまるつきりくちやくちやにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、又上流かみの方へのぼりました。
やまなし (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
大川も吾妻橋の上流かみは、春の夜なぞは実によろしい。しかし花があり月があっても、夜景を称する遊船などは無いではないが余り多くない。
夜の隅田川 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「湊川のやや上流かみの方。山の手から申せば、ひよどり越え、夢野の南。そこに四面どちらからでもよじ登れるような一段丘がございまする」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝早く自分たちは蘆のかげなる稽古場に衣服を脱ぎ捨て肌襦袢はだじゅばんのような短い水着一枚になって大川筋をば汐の流にまかして上流かみ向島むこうじま下流しもつくだのあたりまで泳いで行き
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
両側は崩れ放題の亀甲石垣きっこういしがき、さきは湊橋みなとばしでその下が法界橋ほうかいばし上流かみへ上ってよろいの渡し、藤吉は眇眼すがめを凝らしてこの方角を眺めていたが、ふと小網町の河岸縁に真黒な荷足にたりが二
永代橋えいたいばし上流かみに女の死骸が流れ着いたとある新聞紙の記事に、お熊が念のために見定めに行くと、顔は腐爛くさってそれぞとは決められないが、着物はまさしく吉里が着て出た物に相違なかッた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
魚がこんどはそこら中の黄金きんの光をまるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、また上流かみの方へのぼりました。
やまなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「待て待て。向うで影を隠したのは、おれの舟に気がついたためじゃねえ、上流かみの方からお船手の見廻り船がやって来たのだ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ケイズ釣りというのはそういうのと違いまして、その時分、江戸の前の魚はずっと大川おおかわへ奥深く入りましたものでありまして、永代橋えいたいばし新大橋しんおおはしより上流かみの方でも釣ったものです。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
巨礫きょれきがごろごろしてゐる。一つ欠いて見せるかな。うまくいった。パチンといった。〔これは安山岩です。上流かみの方から流れて来たのです。〕
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
川をでさがしていると、果たして、一艘の大伝馬船おおてんません上流かみからゆるやかに下ってくる。が、ただの船ではない。山のように家財が積んである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巨礫きょれきがごろごろしている。一ついて見せるかな。うまくいった。パチンといった。〔これは安山岩あんざんがんです。上流かみの方からながれてきたのです。〕
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
最初の気込みをすッかりがれて、金吾が顔色なく立ちすくんでしまった時、日本左衛門は彼にかまわず、向うの岸を、上流かみへ向って歩きだしています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくらも、一疋か二疋ならだれだってひろった。庄助は、だまって、また上流かみへ歩きだした。練瓦場の人たちもついていった。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
戦線は瀬田川の川床かわどこだった。上流かみは石山寺辺りから湖水口へかけてまで、折々にわあッと喊声かんせいをあげている。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんな怒って、何か云はうとしてゐるうちに、その人は、びちゃびちゃ岸をあるいて行って、それから淵のすぐ上流かみの浅瀬をこっちへわたらうとした。
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その時、上流かみから乗り入れた千余騎は、一団また一団、乱れ合って、波濤はとうとたたかう無数のいかだのように、河面を埋めて、次第に下流へ下流へと流されて来た。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「吉郎君、きみは上流かみから追って来るんだよ。いいか。」と言いながら、じぶんはだまって立って見ていました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
チョロチョロと何処かで水の湧く音がするほか、上流かみにも下流しもにも、ここら辺りを通う舟はありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなは、わあわあ叫んで、吉郎をはねこえたり、水に入ったりして、上流かみの青い粘土の根にあがってしまった。
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
しかり、鉱山掘夫かなやまほり六十人、その時、野呂川のろがわながれに沿って、上流かみへ上流へと足なみをそろえていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのお魚がまた上流かみから戻つて来ました。今度はゆつくり落ちついて、ひれも尾も動かさずたゞ水にだけ流されながらお口をのやうに円くしてやつて来ました。
やまなし (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「それに、上流かみの煙を見て、さきに上陸したお味方の面々も、何の連絡もしてまいりません」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのお魚がまた上流かみから戻って来ました。今度はゆっくり落ちついて、ひれもも動かさずただ水にだけ流されながらお口をのように円くしてやって来ました。
やまなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかるに、そんな軍隊は見えず、やがて捜し出されたのは十数名の太宰府からの落武者と、遠賀川のやや上流かみで、焚火たきびをあげていた一団四、五十名の味方が発見されただけだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煉瓦場れんぐわばの人たちなんか、三十ぴきぐらゐもとったんだから。ぼくらも、一疋か二疋ならたれだって拾った。庄助は、だまって、また上流かみへ歩きだした。煉瓦場の人たちもついて行った。
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
私は、楼桑村に永らく住む百姓の劉玄徳という者ですが、かねて、蟠桃河ばんとうが上流かみの村に、醇風良俗の桃源があると聞きました。おそらく先生の高風に化されたものでありましょう。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ故に、障碍物をとり除いた水路よりもだいぶ上流かみへ移動して大勢一かたまりに渡河にかかったものであるが、佐々木高綱と梶原景季のふたりは、十分、馬の力に自信があった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとしゅっこが、吉郎、おまい上流かみからって来い、追え、追え、と云いながら、じぶんはだまって立って見ていた。吉郎は、口をあいて手をひろげて、上流から粘土ねんどの上を追って来た。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
淀へそそいでいる川口はかなり広いが、少し上流かみのほうは、さしたる川幅ではない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庄助はだまってまた上流かみへ歩きだしました。ほかのおとなたちもついて行き、網シャツの人は馬に乗って、またかけて行きました。耕助が泳いで行って三郎の置いて来た魚を持ってきました。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
箭道やみちに立つな。上流かみへ寄れ。一様に各〻駒の列を、もそっと、上流かみへ並べ立てい」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくは、からだが上流かみの方へうごいているような気持きもちになるのがいやなので、水を見ないで、むこうの雲の峰の上を通る黒い鳥を見ていた。ところがそれからよほどたっても、魚は浮いて来なかった。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「見えましたっ。十隊のお味方勢が、彼方、千曲川の下流しもからも、上流かみからも」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上流かみの仲間に抛げかけたり
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
つい去年の関ヶ原のいくさの前までは、この川の十町ばかり上流かみには、小城ながら新免しんめん伊賀守の一族が住んでいたし、もっと奥には、因州ざかい志戸坂しどざかの銀山に、鉱山掘かなやまほりが今もたくさん来ている。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮れ方——雲は切れて、笛吹川の上流かみの空は、うすい虹さえ見せた。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)