一葉いちよう)” の例文
一葉いちようさんの小説の男などがその例ですが、女の書く女も大抵やはり嘘の女、男の読者に気に入りそうな女になっているかと存じます。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「課長どの、こういう方がお目にかかりたいと仰有おっしゃいますが」と部下の一人が、一葉いちようの名刺を持って来た。とりあげてみると
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山田美妙やまだびみょうのごとき彗星すいせいが現われて消え、一葉いちよう女史をはじめて多数の閨秀作者けいしゅうさくしゃが秋の野の草花のように咲きそろっていた。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、おりと婆さんはそう語ってから、ふと思い出したように、立って仏壇ぶつだんとびらを開いて、位牌いはいの傍に飾ってあった一葉いちようの写真を持って来て示した。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私がここに書こうとする小伝の主一葉いちよう女史も、病葉わくらばが、霜のいたみにたえぬように散った、世に惜まれるひとである。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
後藤宙外子ごとうちゅうがいしが作中たしか『松葉かんざし』と題せし一篇あり。浅草の風俗を描破する事なほ一葉いちよう女史が『濁江にごりえ』の本郷丸山ほんごうまるやまにおけるが如きものとおぼえたり。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一葉いちよう落ちてと云う句は古い。悲しき秋は必ず梧桐から手をくだす。ばっさりと垣にかかるあわせの頃は、さまでに心を動かすよすがともならぬと油断する翌朝よくあさまたばさりと落ちる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
青い空の中へ浮上うきあがったように広〻ひろびろと潮が張っているその上に、風のつき抜ける日蔭のある一葉いちようの舟が、天から落ちた大鳥おおとりの一枚の羽のようにふわりとしているのですから。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一、梧桐ごどう一葉いちようおつの意を詠じなば和歌にても秋季と為るべし。俳句にては桐一葉きりひとはを秋季に用うるのみならず、ただ桐と言ふ一語にて秋季に用うる事あり。鷹狩たかがりは和歌にても冬季なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
不図墓地に入った。此処は余も知って居る。曾て一葉いちよう女史じょしの墓を見に来た時歩き廻った墓地である。余は月あかりに墓と墓の間をうて歩いた。誰やらの墓の台石だいいしに腰かけて見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私は一葉いちようと云う名前がとてつもなく気に入っている。尾崎紅葉もいい。小栗風葉もいい。みんな偉いひとには「葉」の字がつくので、私も講談を書くときは五葉位にしてみようかと考えた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
したなる流にはわれ一葉いちようの舟をうかべて、かなたへむきてもろ手高く挙げ、おもてにかぎりなき愛を見せたり。舟のめぐりには数知られぬ、『ニックセン』、『ニュムフェン』などの形波間なみまより出でて揶揄やゆす。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
眉山が一葉いちよう女史との浮名うきなを歌われたのもその頃であった。
明治時代の吉原とその附近の町との情景は、一葉いちよう女史の『たけくらべ』、広津柳浪ひろつりゅうろうの『今戸心中いまどしんじゅう』、泉鏡花いずみきょうかの『註文帳』の如き小説に、滅び行く最後の面影を残した。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は封筒の頭をると、一葉いちようの海軍罫紙けいしをひっぱり出した。長造の眼は、釘づけにでもされたように、その紙面の一点に止っていたが、やがてしずかに両眼は閉じられた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一葉いちよう女史の「きょうづくえ」は、作としてほかのものより高く評価されていないが、わたしはあの「経づくえ」のお園の気持ちを、いまでも持っている女はすけなくはなったであろうが、あるとおもう
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わたしはどうかしてこの野卑蕪雑ぶざつなデアルの文体を排棄はいきしようと思いながら多年の陋習ろうしゅう遂に改むるによしなく空しく紅葉こうよう一葉いちようの如き文才なきをたんじている次第であるノデアル。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そう云って青年紳士は、一葉いちようの名刺をさしだした。とりあげて読んでみると
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時分の感想では露伴ろはん先生の『讕言長語らんげんちょうご』と一葉いちよう女史の諸作とにもっとも深く心服した。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一葉いちよう女史の『たけくらべ』には「ぞかし」という語が幾個あるかと数え出した事もあれば、紅葉山人こうようさんじんの諸作の中より同一の警句の再三重用せられているものを捜し出した事もあった。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)