一腰ひとこし)” の例文
やっとの思いでこの一腰ひとこしを拝領に及びました、そこで様子をうかがって見るてえと、この大物の身上がすっかりわかりました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山東笠さんとうがさを日除けにかぶり、青紗あおしゃの袖無し、麻衣あさごろも脚絆きゃはん麻鞋あさぐつの足ごしらえも軽快に、ただ腰なる一腰ひとこしのみは、刀身なかみのほども思わるる業刀わざものと見えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の時に二口ふたふり打ったるを、一腰ひとこしが鬼丸にて、一腰が今御当家にある國綱なれば、どうか鬼丸作りに致せとの仰せなれば、至急の事には相成るまいのう、政七
き、しまくと、元船もとぶね乘棄のりすてて、魔國まこくとこゝを覺悟かくごして、死裝束しにしやうぞくに、かみ撫着なでつけ、衣類いるゐ着換きかへ、羽織はおりて、ひもむすんで、てん/″\が一腰ひとこしづゝたしなみの脇差わきざしをさして上陸あがつたけれど
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
江戸ではまだ敵討の願を出したばかりで、かみからそんな沙汰もないうちに、九郎右衛門は意気揚から拵附こしらえつきの刀一腰ひとこしと、手当金二十両とを貰って、姫路を立った。それが正月二十三日の事である。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
今、あたふたと帰って来ると、戸棚を掻廻して、一枚の単衣ひとえ一腰ひとこしの刀を出し、姿をかえると、手拭で頬冠ほおかむりして、またすぐ草履を穿こうとしていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「刀や脇差は幾本も幾本もあるのだけれど、この一腰ひとこしはお父様が、わけても大事にしておいでなのだから」
元船もとぶね乗棄のりすてて、魔国まこくとこゝを覚悟して、死装束しにしょうぞくに、髪を撫着なでつけ、衣類を着換きかへ、羽織を着て、ひもを結んで、てん/″\が一腰ひとこしづゝたしなみの脇差わきざしをさして上陸あがつたけれど、うえかつゑた上、毒に当つて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ましてやいまは、竹童も般若丸はんにゃまる宮内くないの手にあずけてあるし、蛾次郎もあけびまき一腰ひとこしを取りあげられているから、この勝負こそ、まったく無手むてと無手。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うむ、僅か三十文の銭のために縄目なわめの恥にかかるのはいやじゃ、この一腰ひとこし抵当かたにとってくれ」
唐蜀黍とうもろこしの毛をすこし植えたように、鼻の下にうすひげが生えている、尺八を持っているから虚無僧と人も見ようが、うす汚い着物に、一腰ひとこしの太刀を帯び、乞食か侍か
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きらびやかな短羽織みじかばおりを着、脇差わきざし一腰ひとこしさし、小桜革こざくらがわ足袋たび穿いて、四十がらみのにこやかな人だ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、たいして良い刀ではございませんが、一腰ひとこし、その間だけ、宅にある物をお用い下さいまし」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いろいろ遠方から気をつかってくる北条氏政うじまさにたいしては、梨地蒔絵なしじまきえの太刀一腰ひとこし与えただけで
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葛布くず小袴こばかまに、縹色はなだいろ小直垂こひたたれ、道中用の野太刀一腰ひとこし、次の間においているだけだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だいぶ荒使いをしていためている無銘の一腰ひとこし——それをひっさげて、武蔵が立上がった時
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じ頃、大阪の高島屋で、武蔵の遺墨展覧のあった折、たしか、刀はたった一腰ひとこししか出品されていなかったように思う。それも自分は会場で見ていないので、今出品目録を出してみると
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛟龍こうりょうも時を得ざれば空しくふちに潜むでな、みな木樵きこりをしたり、この山で、薬草採りなどして生計たつきをたてているが、時到れば、鉢の木の佐野源左衛門じゃないが、この山刀一腰ひとこしに、ぼろよろいまとっても
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、七将の者へ、各〻一腰ひとこしずつの脇差わきざしを与えた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たしなみの一腰ひとこしを差し代えて参ります故——』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又、弟子の清人は、鍛ち直しの一腰ひとこしを。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)