-
トップ
>
-
おほぬま
何の
道死ぬるものなら一
足でも
前へ
進んで、
世間の
者が
夢にも
知らぬ
血と
泥の
大沼の
片端でも
見て
置かうと、
然う
覚悟が
極つては
気味の
悪いも
何もあつたものぢやない
大沼の
刻限も、
村里と
変り
無う、やがて
丑満と
思ふ、
昨夜の
頃、ソレ
此処で、と
網を
取つたが、
其の
晩は
上へ
引揚げる
迄もなく、
足代の
上から
水を
覗くと
歴然と
又顔が
映つた。
うつくしき
人の、
葉柳の
蓑着たる
忍姿を、
落人かと
見れば、
豈知らんや、
熱き
情思を
隱顯と
螢に
涼む。
君が
影を
迎ふるものは、たはれ
男の
獺か、あらず、
大沼の
鯉金鱗にして
鰭の
紫なる
也。