黙然だんまり)” の例文
旧字:默然
しずくを切って、ついと出すと、他愛なさもあんまりな、目の色の変りよう、まなじりきっとなったれば、女房は気を打たれ、黙然だんまりでただ目をみはる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お勢はひたえで昇をにらめたままなにとも言わぬ、お政も苦笑いをした而已のみでこれも黙然だんまりと席がしらけた趣き。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と不足らしい顔つきして女を見送りしが、何が眼につきしや急にショゲて黙然だんまりになって抽斗をけ、小刀こがたな鰹節ふしとを取り出したる男は、鰹節ふし亀節かめぶしというちさきものなるを見て
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのたもとに触れ、手に触り、寄ったり、放れたり、筋違すじちがい退いたり、背後うしろへ出たり、附いて廻って弥吉は、きょろきょろ、目ばかりきらめかして黙然だんまりで。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両三度、津山の笑いは、ここで笑うのにあらかじめ用意をしたらしいほど、かたのごとく、例の口許くちもとをおさえて、黙然だんまりを暗示しながら、目でおどけた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、挨拶あいさつもしないで、……黙然だんまりさん。お澄ましですこと。……あゝ、此のあいだはとにばツかり構つて居たから、お前さん、一寸ちょいとかんむりが曲りましたね。」
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
千草色ちぐさいろ半纏はんてんの片手をふところに、膝を立てて、それへ頬杖ほおづえついて、面長おもながな思案顔を重そうにささえて黙然だんまり
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この通り、ト仕方で見せて、だらしなくつ拍子に、あの人もずるりと足を取られた音で、あとは黙然だんまり、そらどけがしたと見える、ぐい、ぐい帯を上げてるが陰気に聞えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要らぬと言えば、黙然だんまりで、腰からさきへ、板廊下の暗い方へ、スーと消えたり……怨敵おんてき退散たいさん
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ると、……そこもやっぱり開いたままの、障子の陰の、湯殿へ通う向うの廊下へ、しとしとと跫音あしおとがして、でも、黙然だんまりで、ちょいと顔だけ見せてのぞいたが、直ぐに莞爾にっこりして
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だって、住吉すみよし、天王寺も見ないさきから、大阪へ着いて早々、あのおんなは? でもあるまいと思う。それじゃ慌て過ぎて、振袖にけつまずいて転ぶようだから、痩我慢やせがまん黙然だんまりでいたんだ。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この間もあので驚かしゃあがった、尨犬むくいぬめ、しかも真夜中だろうじゃあねえか、トントントンさ、誰方だと聞きゃあ黙然だんまりで、蒲団ふとん引被ひっかぶるとトントンだ、誰方だね、だんまりか、またトンか
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ついでに言おう、人間を挟みそうに、籠と竹箸たけばしを構えた薄気味の悪い、黙然だんまり屑屋くずやは、古女房が、そっち側の二人に、縁台を進めた時、ギロリと踏台の横穴をのぞいたが、それ切りフイと居なくなった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その癖、黙然だんまりでね、チトもしおしずかに、とも言い得ない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男はじっとして動かず、二人ともしばらく黙然だんまり
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黙然だんまりで、眉と髭と、面中つらじゅうの威厳を緊張せしめる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男は黙然だんまりの腕組してく。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)