魔性ましょう)” の例文
わが身は蝙蝠こうもり、ああ、いやらしき毛の生えた鳥、歯のある、生きたかえるを食うという、このごろこれら魔性ましょう怪性けしょうのものを憎むことしきり。
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さては魔性ましょうの者でも、きたのかと、恐るおそる戸をあけてみると、何と、仏御前が、旅装束のまま戸口にうなだれて立っていた。
だが、別に人の隠れている気配もない。やっぱり幻影だったのかしら。それとも、魔性ましょうの奴は、素早くも逃げ去ってしまったのだろうか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女は果たして魔性ましょうの者であろうか。年の若い千枝太郎は師匠の教えを少し疑うようにもなってきた。それでも彼は迂闊に油断しなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お君は夜の霧の中に、自分をねら魔性ましょうのものでもひそんでいるように、ぞっと身をふるわせて、四方あたりを見廻すのです。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
真っ暗な風の中を、まっしぐらに駈けてゆく白い足と、うしろに流れる髪の毛とは、魔性ましょう猫族びょうぞくでなくて何であろう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泡んぶくにもお気の毒だ! こういう魔性ましょうが心の中に頭をもたげると、思わず面の表情に現われて、庭の泡んぶくを見ながら、思わずニッと笑いました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多分おれがいなくなると、いろいろな魔性ましょうが現れて、お前をたぶらかそうとするだろうが、たといどんなことが起ろうとも、決して声を出すのではないぞ。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
早く妻にわかれてからは、異性には全然関心を持たなかつた。それは彼の最も世の中で価値ありとする品とか気位とか悧巧りこうとかを誑惑きょうわくする魔性ましょうのものにほかならなかつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
深沈なる馭者の魂も、このときおどるばかりにゆらめきぬ。渠は驚くよりむしろ呆れたり。呆るるよりむしろおののきたるなり。渠は色を変えて、この美しき魔性ましょうのものをめたりけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魔性ましょうの水は、その表面に、寒々さむざむとした影を反射させていた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「そこが、それ、魔性ましょうの変幻自在なところ。入ろうと思えば、どんなところからだって入って来るだろう。……とまア、平素なら恍けておくところだが、今はそんな場合じゃない。それに、まごまごしていると、えらいことになる。実はな、ひょろ松」
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
で、兄の秘蔵の遠眼鏡も、余り覗いたことがなく、覗いたことが少い丈けに、余計それが魔性ましょうの器械に思われたものです。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
のろわれた自分、ひねくれたわれ。泥土のようにわれとわが身を蹂躙じゅうりんしてあきたらないこの身に、呪詛じゅそと、反抗と、嫉妬と、憎悪と、邪智と、魔性ましょうのほかに、何が残っている。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一、思うてもごろうじませ、源家の残党なら、何でてまえ如き取るにも足らぬ人間をつかまえて、こちらの鳥居わきの大木へなど引っ吊るしましょう。……ああいう魔性ましょうな事を
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
働くのは、これ全て、魔性ましょうのしわざであり、主上がこれに対しておとめだてなさるのは、あくまで不動明王ふどうみょうおうの加護に依て、仏の道に導き参らせたいという有難いご趣旨から出たことである
それは空中を鍵形かぎがたに区切り、やいば型に刺し、その区切りの中間から見透みとおす空の色を一種の魔性ましょうに見せながら、その性全体においては茫漠ぼうばくとした虚無を示して十年の変遷へんせんのうちに根気こんきよく立っている。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
などと考えますと、はては、門野自身が、何かこう魔性ましょうのものにさえ見え出して、何とも形容の出来ない、変な気持になって参るのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
魔性ましょうの者と思いの外、それは、まぎれもなく人間だった。
これでいいのかしら、何をいうにも相手は魔性ましょうの人間豹だ。嗅覚きゅうかくのするどい野獣のことだから、長いあいだには、蘭子の隠れがを突きとめまいものでもない。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
魔性ましょうのものが住んでいて、人身御供ひとみごくうを欲しがるのだろうという伝説さえある位で、魔の淵という名前も、そんな所から起ったのではあるまいかということであった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、咲きほこる花のかげにこそ、おどろおどろしきあやかしの黒い風が待ち構えているものだ。彼がその存在をふと忘れた時にこそ、魔性ましょうのものは彼のすぐうしろにたたずんでいるのだ。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それほど細く、それほど黒く、何かしら曖昧あいまいな、無気味な、魔性ましょうの糸であった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
年とった人たちは、きっと魔性ましょうのものがいたずらをしているのだ、お化けにちがいないと、さもきみ悪そうにうわさしあいましたが、若い人たちは、お化けなぞを信じる気にはなれませんでした。
少年探偵団 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
魔性ましょうのものが近づいてくるような感じです。
魔法人形 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)