駈引かけひき)” の例文
社交と、偽善と、虚礼と、駈引かけひきと、繁雑はんざつきわまる現代生活は、ドヴォルシャークにとっては、相当荷厄介にやっかいなものであったに違いない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
先日の二人の学生さんだって、十六七には見えながら、その話振りには、ちょいとした駈引かけひきなどもあり、なかなか老成していた箇所がありました。
心の王者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ましてこれから、知らねえ土地を遍歴へめぐって、上州の国定忠次で御座いと云って歩くには、駈引かけひき万端ばんたんの軍師がついていねえ事には、どうにもならねえのだ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たしかに駈引かけひきをしているにちがいないが、本音ほんねを吐かせるところまで捻伏せるつもりなら、こちらも、感情を編みだすところから、やらなくてはならない。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
名もなき女童をんなわらべ共と一つ所に起き伏しゝて合戦の駈引かけひきなんど知るに由なく、無念やる方なかりしが、今その頃の事を思へば中々興ありしことに存ずるなりと被仰おほせられ
いくさ駈引かけひき、外交の術策、そのための諸政の表裏——などを見て、直ちに、個々の道義、人情までを、それの如くでよしとするような考えを致すなれば、それこそ
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すこしは駈引かけひきもありさうな戀人、しやれた心配もする柳の木よ、わたしの悲しい心のよろこび
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
鏡台の件にしても、その後けろりとして順一は疎開させてくれたのであった。だが、正三にはじわじわした駈引かけひきはできなかった。……彼は清二の家へ行ってカバンのことを話した。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
蝋の売捌うりさばきにいたるまでの商売上の駈引かけひき、その他、日々の一家の経営にかけては、人にうしろ指をさされたことがなく、それに、すでにその頃には、子供が二人も出来ていたので
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
こいつは少々駈引かけひきがあると米友がその時に思いましたのは、ほんとうに斬る気ならば前触まえぶれはないはずである、ところが刀を往来中おうらいなかへころがして置いて、文句をつけに出るのだから
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
氣球きゝゆうがいよ/\大陸たいりく都邑とゆう降下かうかしてのち秘密藥品ひみつやくひん買收ばいしうから、ひそかにふね艤裝ぎさうして、橄欖島かんらんたうおもむまであひだ駈引かけひき尋常じんじやうことい、わたくしはやくも櫻木大佐さくらぎたいさこゝろたので、みづかすゝた。
親代々から一村の長として、百姓どもへ伝達の事件をはじめ、平生種々さまざまな村方の世話駈引かけひき等を励んで来たその役目もすでに過去のものとなった。今は学事掛りとしての仕事だけが彼の手に残った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駈引かけひきのないところ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「面倒な駈引かけひきは拔にして、早速うけたまはりますが、手前共の八五郎といふ男——、鈴賣に身をやつして參つた筈で御座いますが、あれは何うなりました」
けれども、この日本三景の一の松島海岸で不思議に結ばれた孤独者同士の何の駈引かけひきも打算も無いわばすこぶ鷹揚おうような交友にも、時々へんな邪魔がはいった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だから、彼の一進一退は、すべてこの目的と駈引かけひきから、割り出されていた。そうした彼の眼から見ると、ここのあるじの岩間角兵衛などは年こそ自分よりはずっと上だが
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際よりは重そうに駈引かけひきをする必要があるのだった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
口不調法なほど實直な新助は、これだけの事を何べんも何べんも繰り返して言ふだけで、それ以上に隱し事も駈引かけひきもあらうとは思へなかつたのです。
「危ないぞ。敵のもろさは、駈引かけひきだ。追うな追うな。追わば、敵のワナにおちいるぞ」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長兄は、謂わば立派な人格者なのであって、胸には高潔の理想の火が燃えて、愛情も深く、そこに何の駈引かけひきも打算も無いのであるから、どうも物語を虚構する事に於いては不得手なのである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
此方こっちは居職で華奢な綾麿一人、向うは達者で駈引かけひき上手で荒っぽい古金屋が五六人、もとより相手になる筈もなく、後ろから追いすがる者の手に捕まるか、前に待っている仲間の手にちるか
そら寝の駈引かけひき
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)