香気におい)” の例文
旧字:香氣
いやだ。いやだ。イケナイイケナイ。私から先だ私から先だ。私は香気においぎたい。花だの香木だのの芳香においが嗅ぎたい。早く早く」
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
番茶をほうじるらしい、いゝ香気においが、真夜中とも思ふ頃ぷんとしたので、うと/\としたやうだつたさわは、はつきりと目が覚めた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
不図ふとがついてると、その小人こびと躰中からだじゅうから発散はっさんする、なんともいえぬ高尚こうしょう香気におい! わたくしはいつしかうっとりとしてしまいました。
先生は鼻眼鏡をたかい鼻のところに宛行あてがって、過ぎ去った自分の生活の香気においぐようにその古い洋書を繰りひろげて見て、それから高瀬にくれた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
云うに云われない菊特有の香気においはどうして出来たものか、これも深く詮索をすれば結局判らない事になってしまう。
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
でも、それは、この季節らしい柔らかみを帯びた風景として、かえって美しく、万物を受胎に誘う春風の中に、もろもろの香気においの籠っているのと共に、人の心を恍惚とさせた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょうどそこでは、沢山の美しい薔薇が満開で、そのほかに蕾やら、八分咲きやら、いろいろありました。それが朝のそよ風の中に、えもいわれぬ香気においをただよわせていました。
勘「何んだって度々水を汲んでやったりなんかするんで大きに色々お世話に成るって呉れましたがあんまい心持だから匂いを嗅いだが、っとも好い香気においはしませんね、矢張やっぱり手拭の臭いがした」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は自分でも仕事の疲労を忘れるために買って置いたその好い香気においのする興奮剤を激しく疲れている節子に飲ませた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
少女の寝息とも……牛乳の香気においとも……萎れた花の吐息といきともつかぬ、なつかしい、甘ったるい匂いが、又もホノボノと黄絹の帷帳の中から迷い出して来た。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
返された時、博覧会の饅頭の香気においがした……地獄、餓鬼、畜生、お悦さん。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
男の児の節句も近づいたことを思わせるそのささの葉の蒸された香気においは、節子の口から彼女の忘れようとして忘れ得ない子供のうわさを引出すに十分であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
味もわからず香気においまい
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
何かこう酒の香気においでもいで見たら、という心さえ起って来た。この心は捨吉を驚かした。彼はまだ一度も酒というものを飲んで見たことが無かったから。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酒の香気においも座敷に満ちていた。岸本のために膳部ぜんぶまでが既に用意して置いてあった。元園町は客を相手に、さかんにはなしたり飲んだりしているところであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
捨吉は急にかしこまって、小さな猪口ちょくを友達の前に置いた。ぷんと香気においのして来るような熱燗あつかんを注いで勧めた。一口めて見たばかりの菅はもう顔をしかめてしまった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土地柄らしく掛けてある諸講中こうじゅうの下げ札なぞの目につくところから、土間づたいに広い囲炉裏いろりばたへ上がって見た時は、さかんに松薪まつまきの燃える香気においが彼の鼻の先へ来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岡の上へ出ると、なまぬるいかすかな風が黄色くなりかけた麦畠を渡って来る。麦の穂と穂のれる音が聞える。強い、おおい冠さって来るようなくさむら香気においは二人を沈黙させた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とおばあさんに言われて、お民は目を細くしたが、第一その香気においに驚かされた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
花は何に限らず好きだったが、黄な薔薇は殊におせんが好きな花だった。そして、自分で眼を細くして、その香気においいで見るばかりでなく、それを家のものにも嗅がせた。マルにまで嗅がせた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、やわらかい香気においの好い空気を広い肺の底までも呼吸した。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新しい異国の香気においは、そこにいるだれよりも寿平次の心を誘った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「御覧、よい香気においだこと。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)