饒舌おしゃべり)” の例文
恐ろしい饒舌おしゃべりに似ず、急に田螺たにしのように黙りこんでしまいます。この上聴いたところで、もう大した収穫もありそうにも思われません。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
僕は酒売台さけうりだいに陣地を取ったわけだが、ところがそこの主人は大変な饒舌おしゃべりで、僕のききたいことは、何もかもよく喋べってくれた。
「そうか、わしは、今年で、もう、六十年も山をおりたことはないが、饒舌おしゃべりの道士のために、とうとう引っぱり出されるのか」
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
黒吉は、黙って、この饒舌おしゃべりな由子の傍を離れると、立附たてつけの悪い楽屋の床板を小さく鳴らしながら、あてもなく顔見世台の方へ歩いて行った。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
それァもう仰有おっしゃるまでもなく承知いたしております。つまらない饒舌おしゃべりをして掛替かけがえのない首でも取られた日にゃ御溜小法師おたまりこぼしが御座いませんや。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
廊下は長く、階段は急であり、その上ジョンドレットは饒舌おしゃべりだから、ルブラン氏はまだおそらく馬車に乗ってはいないだろう。
厭々いやいやであったが、持物といっては金属性の球だけをポケットにして、饒舌おしゃべりなAや気難きむずかし屋なBと共々打ち連れて、先ず都をして旅にのぼった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
また無益な饒舌おしゃべりは慎まねばならぬというわけで、好意から他言せぬようにと執事やその他の者にまで注意しておきました。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
十分ほど前なら、加十はたしかにこの利いたふうな饒舌おしゃべりを笑ってやることが出来た。しかし、今は笑うことも出来やしない。まさにその通りなんだ。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、いつもの無口にも似合わず立てつづけに饒舌おしゃべりをした。問いをかけられるのが恐ろしいものだから、成るだけ相手に口を開かせないようにするのだ。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
荒い人達のすることは高瀬をあきれさせた。しかしその野蛮な戯れは都会の退屈な饒舌おしゃべりにもまさって彼を悦ばせた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
尼婆さんのほか饒舌おしゃべりには弱らされたが、これだけは、もう一度、また一度と、きかせて貰った。調子に乗ると、手拍子が張扇子はりおうぎになって、しかも自己流の手ごしらえ。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてとびらの後ろに隠れて子供たちの饒舌おしゃべりをうかがっていた。それを聞き取ると胸をどきつかせた。
町人の癖でおんもりとした事は云えないので……こんな饒舌おしゃべりも付いて居りますが、此の通りずぼらなことは云うが堅いことは云えませんから、お打解けなすって召上りまし
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ドチラかというと寡言の方で、眼と唇辺に冷やかな微笑を寄せつつ黙して人の饒舌おしゃべりを聞き、時々低い沈着おちついた透徹すきとおるような声でプツリととどめをすような警句を吐いてはニヤリと笑った。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
朝夕ちょうせき平穏な時がなくなって、始終興奮している。苛々いらいらしたような起居振舞たちいふるまいをする。それにいつものような発揚の状態になって、饒舌おしゃべりをすることは絶えて無い。むしろ沈黙勝だと云っても好い。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ある日源太が不在るすのところへ心易き医者道益どうえきという饒舌おしゃべり坊主遊びに来たりて、四方八方よもやまの話の末、ある人に連れられてこのあいだ蓬莱屋へまいりましたが、お伝という女からききました一分始終
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕は深夜の散歩を好むのあまり、饒舌おしゃべりを弄しすぎたようである。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
イムバネスの饒舌おしゃべりはなお続いた。
帰途 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
女中は饒舌おしゃべりにひと区切つけた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そうか、わしは、今年でもう六十年も山をおりたことはないが、饒舌おしゃべりの道士のために、とうとう引っ張り出されるのか」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
黒吉は、眼の前に浮んだ由子の饒舌おしゃべりな顔を、首を振って、払いのけた。長々しく葉子の悪口をいう、由子自身の方が、よっぽど悪魔に近いように思われた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
いつも帰って来ると上機嫌で饒舌おしゃべりをするのに、今日に限ってうんともすんとも云わずに、黙アって坐りこんで、毒でも食べるように不味まずそうに夕食ゆうめしを食べてさ。
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
平次は老船頭の饒舌おしゃべりをいい加減に聞いて、船から飛降りると、一散に本銀町へ駆けて行きました。
ド・スキュデリー嬢からバルテルミー・アドー夫人におとし、ド・ラファイエット夫人からブールノン・マラルム夫人へ堕し、そしてパリーの饒舌おしゃべりな女の恋情を焼き立て
一高一低の掛時計の音が、父の狂気じみた饒舌おしゃべりの調子をとっていた。彼はもうたまらなくなって、逃げ出そうとした。しかし出て行くには、父の前を通らなければならなかった。
それに饒舌おしゃべりうるさくて、月に三四度ずつは必ず頼んだ按摩あんまめた。私は自分の身体からだが自然と回復するのを待つより外に無かった。はかばかしい治療の方法も無いと言うのだから。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鐵「おゝおゝ仕様がねえな、本当に手前てめえ饒舌おしゃべりだな」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女は元来饒舌おしゃべりや騒々しいことの嫌いな性分なのに、こうして雑鬧ざっとうの中へ入ってゆくのは、そこではひとから勘づかれないで男達の合図に答えることが出来るからであった。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
飛び廻っていた由子——饒舌おしゃべりの由子——、それが今、こうして貧し気ながらもタッタ一枚の着物を着、大人のような帯を締ていると、その言葉のように、由子はもう大人だったのだ。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
少し耳が遠くて、またそのために饒舌おしゃべりだった。歯は抜け落ちてしまって、ただ上と下とに一本ずつ残っていたが、それを始終かみ合わしていた。彼女はいろんなことをコゼットに尋ねた。
平次はガラッ八の饒舌おしゃべりを整理するように、こう切り出します。
女「落語家は饒舌おしゃべりで嫌い」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
或る者は真黒な喪服をすっぽりとかついで、悄然と力ない歩調あしどりをしているかと思うと、一方には華やかに着かざって、饒舌おしゃべりをしたり高笑いをしたりしながらやって来る者もある。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
だが、女は平気で饒舌おしゃべりをつづけた。おれはちあがってへやの中を歩きはじめた。そうして歩き廻っているうちに、ふと暖炉棚の上に、小型のピストルが載っているのが眼に止まった。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)