ひも)” の例文
気のッけい、侠気も義もねえ男だと聞いています。いくらひもじいッからって、そんな泥臭どろくせえ野郎の下にゃあ付きたくありませんからね
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして祝詞が終るころにはもうひもじくて/\気が遠くなる程になるので、出された御馳走を、まるで餓鬼のやうにがつ/\がぶ/\と喰べたり、飲んだりして
蛇いちご (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
今まで、何かにつけて禰宜様宮田は自分の心のうちに年中ひもじがって、ピイピイ泣いては馳けずりまわっている瘠せっぽちな宿無し犬がいるような気持になりなりした。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それで、父の出征したのちは、新しく炊いた飯は、一度もうことがなくなったが、とにかく、二度も三度も蒸しかえした残り飯でも、ひもじい思いはせずに、私達は暮した。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
やまにも、さわにも、もはやべるものがなかったので、おおかみはこうしてひもじいはらをして、あたりをあてなくうろついているのです。すずめはそれを毎夜まいよのようにるのでした。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
誰でも他人の為めに働く前にづ自分の元気をつけなくちやならない。しかし自分がたべるとすぐに、ほかのひもじい者の事を考へるのだ。人間の間では、何時もさうは行かない。
彼は長い間浮浪犬としてひもじい目をしたせいであろ、食物を見ると意地汚いじきたなくよだれを流した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひもじい時にそんな話をするやつが……ああ俺はもうだめだ。三日食わないんだ、三日。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それとも知らず自分の弁当は流してしまい、旦那の持って居なさる弁当箱には秋田屋のしるしがござんすから、二日二夜ふたよさのひもじさにうっかり喰ったのが天道様てんとうさまばちでござんしょう、旦那
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「解り切ってるよ。ただひもじいから旨いのさ。その他に理窟りくつ糸瓜へちまもあるもんかね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
常にひもじきがめ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのために貧乏して、おっかあにひもじい思いをかけるより、きょう限り、杖を折って、一枚の田でもよけいにたがやしたほうがいいとおらあ考えただが
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神主さんはおなかのへんをさすつてみますけれど、おなかはげつそりとしてをります。むしおほかみのやうに腹が背骨にくつゝいてをります。そしてそのひもじいことゝいつたら、何ぼたべても追ひ付きません。
蛇いちご (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「いいえ、私は、ひもじいことはありません。何もいりません。……それよりは、どこもお怪我けがなさいませんか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又八は、昼の病苦をわすれた代りに、すっかりひもじくなっていた。胃液まで空っぽなのだ。追手の心配がなくなってからは、急に歩くことが苦痛になっていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(みなが、揃って、のどから手が出そうな食物を——日頃のひもじさを、じっと、つつましくこらえているな)
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひもじい腹を思いながら、日吉は漠然と、今夜からの寝床を思案していた。すると彼の冷たい足に、何か柔らかなものがからみついた。ふと見ると愛らしい小猫なのだ。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忘るるな、このひえあわの軽い飯茶碗は、殿さまがそち達を好んでひもじゅうさせよとて、下されているものではない。年ごとに武田勢に御領地をられてしまうためじゃ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「寒かろう、それにひもじいであろう。はての……なんぞ温い食べ物でもあればよいが」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「不愍をかけておっては、口を開かせることは出来ますまい。ならば拙者が、四、五日預かっておいて、物置小屋にでも押しめておきましょう。自然、ひもじさに、実を吐くやも知れませぬ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おうおう泣いて。——ひもじゅうなったか」
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)