たましい)” の例文
旧字:
わたしのたましいはここを離れて、天の喜びにおもむいても、坊の行末によっては満足が出来ないかも知れません、よっくここをわきまえるのだよ……
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
ショパンこそは「ピアノの歌い手、ピアノの詩人、ピアノの心、ピアノのたましい」であること、今日といえども少しも変りはない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
「今度はなかなか運びがいい。これじゃあの馬鹿もそのうちにタラス同様、身体からだからたましいまでおれのものにしてしまえるぞ。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
小田原の神に、たましいがおあんなさればなおの事、捧げられる供物、お初穂が、その品物のために、若い娘の身に、過失あやまちのあることをお望みはなさりはせん。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぐんにゃりと横になってたましいの抜けた人形のようにただ壁の古新聞に眼を注いでいたが、思い出しては涙にむせんだ。
お前の、たましいの籠っているこの鏡を、父の墓へ埋めてやるから、父の側で——父に抱かれて、安らけく、眠るがいい
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
(ああ、あのお旗のたましいは、躑躅つつじさきやかたを捨てて行く、きょうのお引き移りを、何とも惜しんでいないだろうか)
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、そこのおぼうさんにたのんで、小さい美しい二人のたましいのために、ねんごろにおきょうをあげてもらいました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私の今度の航海は必ずしも物の哀れの歌枕でも世の寂栞さびしおりを追い求むる風狂子ふうきょうしのそれでもなかった。ただ未だ見ぬ北方の煙霞に身もたましいもうちこんで見たかったのである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
まず、天地の間に生きとし生けるもの、のみはえに至るまで、いずれかたましいなからんや。その霊なきものを無情、草木、瓦石がせきという。これにだも、なお霊あるいわれあり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
見かけこそうす汚いがたましいまで垢のついている人物とは思わなかったし、それにこの黄帽子インコという種類は、一般にたちのいい鳥だという事も知っていたものですから
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
「待て、爾の玉は爾のたましいよりも光っている。玉を与えよ。爾は玉を与えると我にいった。」
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
上品な娯楽は人間のたましいの慰安になるが、下等な娯楽は霊を腐食ふしょくする黴菌ばいきんである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その癖、顔一杯に微笑をたたえながら、「恋人を突然奪われたその令嬢に、同情して、黙って私にまかして下さいませ。私が責任をもって、青木さんのたましいが、満足遊ばすようにおはからいいたしますわ。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
十幾年来覚えなかった安らかな夢を結んだりした時には、ただれきったたましいよみがえったような気がしたのであったが、濁った東京の空気にかえされた瞬間、生活の疲労が、また重く頭にかぶさって来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんなら僕のたましいの側はどうだ。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「すれば、あの人のたましいが、私をここへ引寄せたのかもしれない」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)