雪踏せった)” の例文
雪踏せったをずらす音がして、やわらかなひじを、唐草の浮模様ある、卓子テイブルおおいに曲げて、身を入れて聞かれたので、青年はなぜか、困った顔をして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心配しんぺいするな」笑いながら、さっさと足を進めると、なるほど河岸かしッぷちの闇から、チャラリ、チャラリ……と雪踏せったる音。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝も附いて来て、赤い緒の雪踏せったを脱いで上った。僕は先ず跣足はだしで庭のこけの上に飛び降りた。勝も飛び降りた。僕は又縁に上って、尻をまくった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
照降町は下駄や雪踏せったを売る店が多いので知られていたが、その中でも駿河屋は旧家で、手広く商売を営んでいた。
三吉は一旦いったん脱いだ白シャツに復た手を通して、服も着けた。正太は紺色の長い絹を襟巻えりまきがわりにして、雪踏せったの音なぞをさせながら、叔父と一緒に門を出た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小さく結んで雪踏せったの音を川の流れと交って響かせて行く若い女の様子を仙二は恐ろしい様な気持で見た。
グースベリーの熟れる頃 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わきに置いた主人の雪踏せったとお嬢様の雪踏と自分の福草履三足一緒に懐中ふところへ入れたから、飴細工の狸見たようになって、梯子をあがろうとする時、微酔機嫌ほろよいきげんで少し身体がよこになる途端に
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
上方へ修行に上りそうろう雪踏せった穿き候まま、旅支度も致さず参りしこと故、相なるべくはお通し下され候様に、と言ったら、番頭ばんがしららしきが言うには、御大法にて手形なき者は通さず
話すならもっと大きな声で話すがいい、また内所話をするくらいなら、おれなんか誘わなければいい。いけ好かない連中だ。バッタだろうが雪踏せっただろうが、非はおれにある事じゃない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熊の皮の甚兵衛を着て、もんぺと雪踏せったをはいているのである。賢彌に近づくと
岩魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「せきだ」は雪踏せったのことである。『言海』には雪踏の訛としてある。卯の花の咲いている里の垣根に雪踏が干してある、というだけのことに過ぎぬが、これは考えて後にはじめて得る配合ではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
椅子と椅子と間がまことに短いから、袖と袖と、むかい合って接するほどで、もすそは長く足袋に落ちても、腰の高い、雪踏せったさき爪立つまたつばかり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ばかにするな、はははは」と、孫兵衛、くすぐったい笑いを残して、雪踏せったの音、チャラリ、チャラリ……と闇に消える。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霜どけ道に雪踏せったをすべらせて、曽根が小膝を突いたところを、伝蔵は突き放して一目散に逃げてしまったそうです
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お玉は草帚くさぼうきを持ち出して、格別五味ごみも無い格子戸の内を丁寧に掃除して、自分の穿いている雪踏せったの外、只一足しか出して無い駒下駄を、右に置いたり、左に置いたりしていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と云いながら袖をぱらって雪踏せったを脱ぎ捨て、跣足はだしの儘駈け出す。
悪い所へ、旅川周馬が戻ってきたのではないか、その時、へいの向うに忍びやかに、チャラリ、チャラリ……と雪踏せったの音。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手巾ハンケチをそのまま日傘の柄に持ち添えて、気軽に雪踏せったちゃらちゃらと、鴨川が根岸の家へ急いだのであった。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雪かみぞれか雨か、冷たいものに顔を撲たれながら、彼は暗い屋敷町をたどってゆくうちに、濡れた路に雪踏せったを踏みすべらして仰向あおむきに尻餅を搗いた。そのはずみに提灯の火は消えた。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
千草ちくさの股引白足袋に雪踏せった穿いた小僧が腮を押え泣声を出して
歩きださぬときゃつの眼が、またうるさくつけてくるだろうと、それをまぎらす足どりである。だから、いたって悠々としたもの、雪踏せった裏金うらがねも鳴らぬ程に。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やはり普通の帷子かたびらをきて、大小に雪踏せったばきという拵え、しかし袴は着けていません。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
万太郎の右足が上がって、雪踏せったの裏でカラリッと大地へ落とされた物を見ると、それは銀磨ぎんみがききの丸棒にりの打った鉢割という武器で、やはり捕物道具のひとつ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのに——万太郎が雪踏せったを鳴らして、ぶらりぶらり、さなきだに感覚的な盗賊たちの目をひくような彷徨をやっていたひには堪ったものではない、ぶちこわしです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒い塀の所へ黒い人間が、ジッと立っていたのだから、ウッカリ気がつかなかったのも当然で、茶柄ちゃづかの大小、銀鐺ぎんこじり、骨太だがスラリとして、鮫緒さめお雪踏せったをはいている背恰好せかっこう
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高津筋の辻から、お十夜孫兵衛、チラリ、チラリと雪踏せったを鳴らして曲ってきた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娑婆しゃばの夜景にのびのびとして、雪踏せったを軽く擦りながら町の軒並を歩きますに、茶屋の赤い灯、田楽でんがく屋のうちわの音、蛤鍋はまなべ鰻屋うなぎやの薄煙り、声色屋こわいろや拍子木ひょうしぎや影絵のドラなど、目に鼻に耳に
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、雪踏せったをすって、石段を下りはじめた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、先へ雪踏せったを鳴らして、歩き出した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)