雜沓ざつたふ)” の例文
新字:雑沓
江戸の賑ひを集め盡したやうな淺草の雜沓ざつたふは、この意味もなく見えるさゝやかな事件を押し包んで、活きた坩堝るつぼのやうに、刻々新しいたぎりを卷き返すのです。
ひがしもんからはひつて、露店ろてん參詣人さんけいにんとの雜沓ざつたふするなかを、あふひもんまく威勢ゐせいせた八足門はつそくもんまへまでくと、むかうから群衆ぐんしうけて、たか武士ぶしがやつてた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
大通へ出ると、毎朝屹度山の手の方の製絲工場の汽笛が鳴ツて、通は朝の雜沓ざつたふを極めてゐる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
たせてきてもかりしを供待ともまちちの雜沓ざつたふ遠慮ゑんりよして時間じかんはやめに吩咐いひつけかへせしものなんとしての相違さうゐぞやよもやわすれてぬにはあらじうちにても其通そのとほ何時いつまでむかさずにはかれまじ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
洛中らくちゆうの民はさながらきやうせるが如く、老を負ひ幼を扶けて火を避くる者、僅の家財を携へて逃ぐる者、或は雜沓ざつたふの中にきずつきて助けを求むる者、或は連れ立ちし人に離れて路頭ろとうに迷へる者
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
風琴、「オルガノ」の響喧しく、女子のこれに和して歌ふあり。兵士、希臘ギリシア人、土耳格トルコ人、あらゆる外國人とつくにびとの打ちまじりて、且叫び且走る、その熱鬧ねつたう雜沓ざつたふさま、げに南國中の南國は是なるべし。