陶然たうぜん)” の例文
尤も勸める方のお粂も、お付き合ひに一杯呑み、二杯呑み、八五郎が陶然たうぜんとした頃は、お粂もやがてほろりとしてをりました。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ほだの煙は「自然の香」なり、篠田の心は陶然たうぜんとして酔へり、「私よりも、伯母さん、貴女あなたこそ斯様こんな深夜おそくまで夜業よなべなさいましては、お体にさはりますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しかるに御老職ごらうしよく末席ばつせきなる恩田杢殿方おんだもくどのかた一家内いつかないをさまり、妻女さいぢよていに、子息しそくかうに、奴婢ぬひともがらみなちうに、陶然たうぜんとして無事ぶじなることあたか元日ぐわんじつごとくらされさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
成程なるほど一日いちにちの苦とうつかれていへかへツて來る、其處そこには笑顏ゑがほむかへる妻子さいしがある、終日しうじつ辛勞しんらう一杯いつぱいさけために、陶然たうぜんとしてツて、すべて人生の痛苦つうくわすれて了ふ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
千駄木から戻つて來ると、女房のお靜を走らせて、三合ばかり買はせた平次は、乾物か何んかかじりながら、陶然たうぜんとしたところで、八五郎に問ひかけられました。
たゞしその六尺ろくしやく屏風びやうぶも、ばばなどかばざらんだが、屏風びやうぶんでも、駈出かけだせさうな空地くうちつては何處どこいてもかつたのであるから。……くせつた。ふといゝ心持こゝろもち陶然たうぜんとした。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でも、二つ三つ傾けると、陶然たうぜんとして、天下泰平になる八五郎です。
平次は薄寒さうに懷手をしたまゝ、少し陶然たうぜんとした調子です。