間抜まぬけ)” の例文
旧字:間拔
半日山のなかをけあるいて、ようやく下りて見たら元の所だなんて、全体何てえ間抜まぬけだろう。これからもう君の天祐てんゆうは信用しないよ
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だがおれがほんとうにそんな間抜まぬけかどうか、今にわかるぞ……そればかりじゃねえ……一体誰の子だい、あの餓鬼がさ。誰の子だい
生さぬ児 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そこで貞盛為憲等の在処ありかを申せと責めたが、貞盛為憲等は此等の藤原氏どもに捕へられるほど間抜まぬけでも弱虫でも無かつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「見ろ、見ろ、間抜まぬけめ、なんという馬鹿な顔をしてるんだ! 嘘もいい加減にしろ、無頼漢ならずものめ! 水だ、水だ!」
「船底潜らせだと? 大層てえそうお似合なこったよ。ちげえねえや。元んとこへ戻れ、トムの間抜まぬけ野郎め。」
その手に持ってる洋燈をおけなさい、と曳子はちゅうぱらだから口のうちで、幾たびも、ヘン間抜まぬけだな。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人間はるく悧巧にならないでは生きてゐられないのですものね。誠だの、正直だの、熱い情けだのなんてそんな間抜まぬけなものは今時の人はみんな捨てちまはずにはゐられないのだわ。
「世間め、何だつて取沙汰しないんだらうな。ほんとに間抜まぬけつたらありやしない。」
と太郎右衛門は間抜まぬけな顔をして、二人の立っている間へ顔を突込つっこんでやりました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
青臭いどころか、お前、天狗巌てんぐいわだ、七不思議だと云ふ者が有る、可恐おそろしい山の中に違無いぢやないか。そこへ彷徨のそのそひまさうなかほをして唯一箇たつたひとりつて来るなんぞは、能々よくよく間抜まぬけと思はなけりやならんよ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それは部屋へ帰れずに迷児まごついている今の自分に付着する間抜まぬけ加減かげんひとに見せるのがいやだったからでもあるが、実を云うと、この驚ろきによって
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
洋燈ランプの光がボーッと上を照らしているところに、すすびたがくが掛っているのが眼に入った。間抜まぬけな字体で何の語かが書いてある。一字ずつ心を留めて読んで見ると
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同じ画家ゑかき仲間のなにがしがどんな婦人をんなでもたつた十ヶ月でる仕事を、画家ゑかきともいはれるものが物の十三年もかゝつて、やつと仕上げるなんて、そんな間抜まぬけな事があるものかと、きつい抗議を申込んだのが
その悪済わるすましが気に喰はねえんだい。赤十字社とか看護員とかツて、べらんめい、漢語なんかつかいやあがつて、何でえ、ていよく言抜けやうとしたつて駄目だめだぜ。おいらアみんな知てるぞ、間抜まぬけめい。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「間抜にも大間抜よ。宿帳を御覧、東京間抜まぬけ一人いちにんと附けて在る」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小使が来て何ですかと云うから、何ですかもあるもんか、バッタを床の中にっとく奴がどこの国にある。間抜まぬけめ。としかったら、私は存じませんと弁解をした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
虚言うそという者たれつきそめて正直は馬鹿ばかごとく、真実は間抜まぬけように扱わるゝ事あさましき世ぞかし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私一人の間抜まぬけで済まん。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)