長蛇ちょうだ)” の例文
まもなく、義貞の軍は、尊良たかなが親王の騎馬一群をまん中に迎え入れて、その長蛇ちょうだのながれは、順次、三条口からえんえんと東していた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今や英夷えいい封豕ほうし長蛇ちょうだ、東洋を侵略し、印度インド先ずその毒を蒙り、清国続いでその辱を受け、余熖よえんいままず、琉球に及び長崎に迫らんとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
すなわち、呆然ぼうぜんとして退場しなければならぬ。気を取りなおして、よし、もういちど、と更に戸外の長蛇ちょうだの如き列の末尾について、順番を待つ。
禁酒の心 (新字新仮名) / 太宰治(著)
長蛇ちょうだの如き巨象の鼻は、西の方にさしたる枝なりに二蜿ふたうねり蜿りて喞筒ポンプを見るやう、空高き梢より樹下を流るる小川に臨みて、いま水を吸ふ処に候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鼻は長蛇ちょうだのごとくきばたかんなに似たり。牛魔王堪えかねて本相をあらわし、たちまち一匹の大白牛はくぎゅうたり。頭は高峯こうほうのごとく眼は電光のごとく双角は両座の鉄塔に似たり。
ごうと音がして、白く光る鉄路の上を、文明の長蛇ちょうだ蜿蜒のたくって来る。文明の長蛇は口から黒い煙を吐く。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれは、午前ごぜんのうちにかけ、おおくのひとたちとともに、れつをつくってならんだが、そのながれつは、えんえんとして、さながら長蛇ちょうだのごとく、運動場うんどうじょう内側うちがわ幾巡いくめぐりもしたのであります。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この村へ入ると誰の眼にもつくのは、山を負うて、冠木門かぶきもんの左右に長蛇ちょうだの如く走る白壁に黒い腰をつけたへいと、それを越した入母屋風いりもやふうの大屋根であって、これが机竜之助つくえりゅうのすけの邸宅であります。
王の御座船「長蛇ちょうだ」のまわりには敵の小船がいなごのごとく群がって、投げやりや矢が飛びちがい、青い刃がひらめいた。たてに鳴るはがねの音は叫喊きょうかんの声に和して、傷ついた人は底知れぬ海に落ちて行った。
春寒 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おかげでもう一歩というところであたら長蛇ちょうだいっしたのは、すべてお藤のしわざで、ひっこんでいさえすれば、見事若造を斬り棄てて坤竜丸を収め得たものを! さ、いったい全体だれに頼まれて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
長蛇ちょうだいっした伊那丸いなまるは、なおも、四、五けんほど、追いかけてゆくのを、待てと、坂部十郎太さかべじゅうろうたの陣刀が、そのうしろからしたいよった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長蛇ちょうだを逸すか、」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こうして、すでに長蛇ちょうだを逸し去った曹操は、ぜひなく途中に軍の行動を停止して、各地に散開した追撃軍を漢水のほとり糾合きゅうごうしたが
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのあいだに、天野あまの猪子いのこ足助あすけなどが、鉾先ほこさきをそろえてきたため、みすみす長蛇ちょうだいっしながら、それと戦わねばならなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中国進駐の第一歩はしるされた。戛々かつかつと、夕ぐれの大地を鳴らして、糟屋武則かすやたけのりやかたにはいってゆく長蛇ちょうだの列を見るに。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——事ヲハカルハ人ニアリ。事ヲ成スハ天ニアリ、ついに長蛇ちょうだを逸せり矣。ああ、ぜひもないかな
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くぼに、追跡隊の影のすべてが、ばたばたと、身を折りかがめて、じっと、耳をすましていると、彼方の防風林をつらぬくひとすじの道を、まさに、西軍の長蛇ちょうだが黒々とつづいて行く。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの長蛇ちょうだの提灯行列が流れてゆく熱烈な群衆の顔や打振る紙旗の波などは、幻影のように思い浮かぶが、その中に立ち交じったり、それを見物に行ったりした特殊な実感はないのである。
と令して、みすみすここに長蛇ちょうだをみのがしてしまったものではなかったか。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
龍太郎は、戒刀かいとうつえに、伊那丸の身をまもり、すすきをあざむく白刃はくじんのむれは、長蛇ちょうだの列のあいだに、ふたりをはさんで、しずしずと、おにの口にもひとしい、浜松城はままつじょうの大手門のなかへのまれていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)