長屋門ながやもん)” の例文
道に沿ふて高い石垣をきづき、其の上へ城のやうに白壁の塀を𢌞めぐらした家もあつた。邸風やしきふう忍返しのびがへしが棘々とげ/\長屋門ながやもんの横に突き出てゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのほのぐら長屋門ながやもんをくぐって、見知みしらぬ男がふたりいそいそとはいってくる。羽織はおりはもめんらしいが縞地しまじ無地むじかもわからぬ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
長屋門ながやもん這入はいると鼠色ねずみいろ騾馬らばが木の株につないである。余はこの騾馬を見るや否や、三国志さんごくしを思い出した。何だか玄徳げんとくの乗った馬に似ている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
散りぢりにびあい、叫びあいながら、柳姿りゅうし覆面ふくめん三、四十人、すすきとそよぐやいばをさげて、長屋門ながやもん番士ばんしり、いっきに奥へはしりった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
となり主人しゆじん家族かぞく長屋門ながやもんの一たゝみいてかり住居すまゐかたちづくつてた。主人夫婦しゆじんふうふ勘次かんじからは有繋さすが災厄さいやくあとみだれた容子ようすすこしも發見はつけんされなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
宇都宮うつのみやから益子に、また鹿沼かぬまや日光に行くごとに度々私の心をいた建物を見た。長屋門ながやもんの美しさもその一つだが、私にはことのほかその地方の民家で用いる石屋根が美しく想えた。
野州の石屋根 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
呼び當村たうむらの百姓文藏方へ案内致すべしと申故用右衞門は狼狽うろたへ廻りて組頭くみがしら百姓だい組合の者とう大勢呼集め是は先日のことならんと恐る/\案内致しけるに此文藏の宅は長屋門ながやもんにて土藏七戸前其外納屋等なやとう數多ありて番頭忠兵衞初め下男十人下女五人馬三疋の大福家だいふくかなりし處夜五ツ時ごろ御用ごよう提灯ちやうちん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
源四郎げんしろうの家では、屋敷やしき掃除そうじもあらかたかたづいたらしい。長屋門ながやもんのまえにある、せんだんの木に二、三のシギがいこぼしつつ、しきりにキイキイとく。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)