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鐶
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かん
ふりがな文庫
“
鐶
(
かん
)” の例文
船の揺れはますます激しく、私のいわゆる王様のベッドの洋銀の欄干、網棚、カーテンの
鐶
(
かん
)
などは、しっきりなく音を立てて鳴った。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
うるさく病む眼の邪魔になって、
蝙蝠
(
こうもり
)
がおちこち飛び交していた。薬売の
定斎屋
(
じょさいや
)
が、宣伝の
薬筥
(
くすりばこ
)
の
鐶
(
かん
)
の鳴りを止めてしずかに帰ってゆく。
美少年
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
今も、ぽつねんと、彼は
箪笥
(
たんす
)
の
鐶
(
かん
)
に倚りかかっていた。
置
(
お
)
き
炬燵
(
ごたつ
)
をした膝の上には、五ツくらいな女の子が、無邪気な顔して眠っている。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ぽん太というのは
蚊帳
(
かや
)
を着物に仕立て直し、その蚊帳の四隅の
鐶
(
かん
)
を紋の代わりに結いつけてすましていた変わり者だった。
円太郎馬車
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
幽霊の腰の
鐶
(
かん
)
に引っ掛けて結ぶはずだったが、どう間違えたか、幽霊になった左太松の首へ引掛けて結んでしまった、——恐ろしくそそっかしい野郎で。
銭形平次捕物控:093 百物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
馬に乗るための
鐶
(
かん
)
と〆緒のついた
靴
(
かのくつ
)
だけが、彼を公家武官の一人として、
雑色
(
ぞうしき
)
(下男)どもと区別していた。
菊
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
しかし私は事実のつながりを詳しく述べているのであって、——一つの
鐶
(
かん
)
でも不完全にしておきたくないのである。火事のつぎの日、私は焼跡へ行ってみた。
黒猫
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
職人を増し、灯を明るくして、カラン、カン、カン、カランカンカンと、鼈甲を合せる焼ゴテの
鐶
(
かん
)
を、特長のある
叩
(
たた
)
きかたで、鋭く金属の音を打ち響かせている。
旧聞日本橋:23 鉄くそぶとり(続旧聞日本橋・その二)
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
そこまで来ると、頭上の格の中から、歯ぎしりのような鐘を吊した
鐶
(
かん
)
の
軋
(
きし
)
りが聞え、振動のない鐘を叩く
錘舌
(
クラッパー
)
の音が、狂った鳥のような陰惨な叫声を発している。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
しかしその鎖の
鐶
(
かん
)
はたえず切れて、思い出は週や月……をまたぎ越してたがいにつながり合う。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
紅の襞は鋭い線を
一握
(
ひとにぎり
)
の拳の中に集めながら、一揺れ毎に
鐶
(
かん
)
を鳴らして
辷
(
すべ
)
り出した。彼は
枕
(
まくら
)
を攫んで投げつけた。彼はピラミッドを浮かべた寝台の彫刻へ広い額を
擦
(
こす
)
りつけた。
ナポレオンと田虫
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
奥の方のは見本でしょうが、
拳
(
こぶし
)
ほどもある大きな玉を繋いだのが掛けてあり、前の方には幾段かの
鐶
(
かん
)
に大小の数珠が幾つも並べて下げてあります。その辺まで鳩が下りています。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
そんな事で、
却
(
かえっ
)
て岡村はどうしたろうとも思わないでいる所へ、
蚊帳
(
かや
)
の釣手の
鐶
(
かん
)
をちゃりちゃり音をさせ、岡村は細君を先きにして夜の物を運んで来た。予は身を起して
之
(
これ
)
を戸口に迎え
浜菊
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
またこの
鐶
(
かん
)
にはーと
型
(
がた
)
などの
細
(
こま
)
かい
飾
(
かざ
)
りがぶら
下
(
さが
)
つてゐる、
立派
(
りつぱ
)
な
耳飾
(
みゝかざ
)
りが
時々
(
とき/″\
)
出
(
で
)
ることがありますが、これは
南朝鮮
(
みなみちようせん
)
の
古墳
(
こふん
)
からたくさん
發見
(
はつけん
)
せられるもので、
朝鮮風
(
ちようせんふう
)
のものといふことが
出來
(
でき
)
ます。
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
定斎屋
(
じょうざいや
)
の
鐶
(
かん
)
の音だの、飴屋のチャルメラだの、かんかちだんごの
杵
(
きね
)
の音だの、そうしたいろいろの物音が、幾年月を経たいまのわたしの耳の底にはッきりなお響いている——それらの横町を思うとき
浅草風土記
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
カケガネの
鐶
(
かん
)
は板戸にチャンとついている。
明治開化 安吾捕物:03 その二 密室大犯罪
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
耳朶
(
みみたぶ
)
を
真
(
ま
)
っ
紅
(
か
)
にして、お蔦は、外へ出て行った。すぐ、
隣家
(
となり
)
の格子が鳴り、がたぴしと、壁越しに、
箪笥
(
たんす
)
の
鐶
(
かん
)
の音があらっぽく聞こえてくる。
松のや露八
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
キリキリキリと帆綱の
鐶
(
かん
)
が鳴る。大海の暗黒の、風の、浪の響が、そうそうとして、急に凄く高まった。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
自分の
長靴
(
ながぐつ
)
の
爪先
(
つまさき
)
を、ばらばらの土のなかに半分埋まっていた大きな鉄の
鐶
(
かん
)
にひっかけたのだ。
黄金虫
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
彼は大きな声で呼んでは支那人に聞かれる心配があったので、間断なく取手の
鐶
(
かん
)
をこつこつと戸へあてた。すると、しばらくしてから、火を消した家の中の覗き口がかすかに開いた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
軽い
咳
(
せき
)
がこみ上げてきた。細ッそりとした肩のあたりで
箪笥
(
たんす
)
の
鐶
(
かん
)
が揺さぶれる。と、二ツ三ツ
咽
(
むせ
)
びながら、お米は
小菊紙
(
こぎく
)
を出して口を押さえた。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
帆綱の影、
潮
(
しお
)
じみた
欄干
(
てすり
)
の明り、甲板の板の目、
鐶
(
かん
)
のきしり、白い
飛沫
(
しぶき
)
、浅葱いろの
潮漚
(
しおなわ
)
。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
狼藉
(
ろうぜき
)
に取り散らかされたものの中に、お吉が箪笥の
鐶
(
かん
)
によりかかって、ほつれ毛もかき上げずに、いつまでも今の口惜しさにおののいていた——が、気丈な女、泣いてはいない。
鳴門秘帖:04 船路の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いわば、自分は、鎖の中の一つの
鐶
(
かん
)
だ、ここで、
錆
(
さ
)
びてはならないと思う。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“鐶”の解説
鐶(かん)とは、環状の金属製部品(環状の金具)の総称。「釻」と表記することもある。
一般に、形状を表す語を前につけ、「-鐶(-カン)」と呼ばれる。また、特に大きさの小さいものには「豆」をつけて呼ぶことがある。
通常はばねの力で環は閉じており、力を加えると環が開くものが多い。
(出典:Wikipedia)
鐶
漢検1級
部首:⾦
21画
“鐶”を含む語句
吊鐶
掛鐶
足鐶
金鐶
鐶兵衛
鐶紐
鼻鐶