かね)” の例文
旧字:
喜久井町きくいちょうにかえると、老母ばあさんは、膳立ぜんだてをして六畳の机の前に運んで来た。私はそれを食べながら、かねの工面をして、出かけようとすると
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それから暫くたった時、今日はうまい物を腹いっぱい食べてかねつかってしまってやろうと思った。寿司すしが第一に眼についた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そしてまた、町のおじさんおばさんは、いなかの人のように、おかねのことではケチケチしません。いつも五十銭ぐらい、おだちんをくれたのです。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
安閑としてぶらり遊んでいることは嫌いで必ずしも自分の仕事がかねにならなくても、手とあたまとを使って自分の意匠を出して物をこしらえて見ようというのである。
「いいんだよ。おこってるんじゃないんだ。いいからかねをとって、お前だけ寝ればいいんだよ。」
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
「なる程嬉しかつたよ。ほんとに嬉しいもんだな、落したかねを拾ふといふものは。」
そこでまた思い切ってその翌朝よくあさ、今度は団飯むすびもたくさんに用意する、かねも少しばかりずつ何ぞの折々に叔父にもらったのをめておいたのをひそかに取り出す、足ごしらえも厳重にする
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幾干いくらはいってるものかね。ほんとに一片何銭にくだろう。まるでおかね
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あんた、かねを儲けなければならないなんて、それは何とか出来るじゃありませんか。あんたただ一人きりの大切な娘がそんな一通りならぬ病気を
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そんな田畑があるなら、それを売払つて、そのかねで白米を買つたなら、かりさうなものだが、その田畑は亡くなつた親父おやぢこしらへたものだけに、その男の自由にもなり兼ねるらしい。
お吉其儘そのままあるべきにあらねば雇いばばにはかねやってひま取らせ、色々片付かたづくるとて持仏棚じぶつだなの奥に一つの包物つつみものあるを、不思議と開き見れば様々の貨幣かね合せて百円足らず、是はと驚きて能々よくよく見るに
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ああ、これは高いかねを出して買ったのだ」と思いながら、方々の戸棚とだなを明けて見るといろんな物が入っている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
私がかねを勘定しいしいお宮と遊んでいるのに、柳沢は銭に飽かして遠くに連れ出すなり、外に物を食べに行くなりしようと思えば、したい三昧ざんまいのことが出来る。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それよりも斯うしていて自然に、心が変って行く日が来るまでは身体を動かすのが怠儀であったのだ。加之それにかねだって差当り入るだけ無いじゃないか。帰って来て
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
まあそういうようにして、ちょび/\書籍を売っては、かねを拵えて遊びにも行った。けれども、それでも矢張し物足りなくって、私の足は一処ひとところにとまらなかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
他人ひとが使うかねだから、そりゃ何に使っても可い理由わけなんだ。……何に使っても可い理由なんだ。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
している。それで、君がどうしても女がしいなら、かねを五百何十円出してもらわねばならん
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それまでいたよその家の二階がりの所帯を畳んで母親はどこか上京かみぎょう辺の遠い親類にあずけ、自分の身が自由になるまで、少しでもよけいなかねのいるのを省きたいと言っていた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)