がね)” の例文
一心不乱に経文を読誦とくしょうしながら、絶え間なく伏せがねたたきつづけ、誰が言葉をかけても、きものがしたように振り向きもしなかった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後囃子あとばやしが、また幕打った高い屋台に、これは男の稚児ちごばかり、すりがねに太鼓を合わせて、同じく揃う十二人と、多一は同じ装束である。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは養子の関平が、いかに英豪でも年とった父のこと、長戦になっては万一の事もあろうか——と急に退がねを打たせたのであった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「六波羅勢わずか五百騎というか! ……牽制けんせいする手間暇はいらぬ! ……機会は来た、さあ右衛門、退がねをお打ち、さあ退き鉦を! ……」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あっしがステテコを踊ることになったんで……船の中に派手な三桝みます模様の浴衣ゆかたと……その頃まだ団十郎くだいめが生きておりました時分で……それから赤い褌木綿ふんどしもめんと、スリがね、太鼓
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
博士のわれがねのような声にびっくりして、僕は博士が手招てまねきしている一つの室へとびこんだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やっと、そのころになって、諸所の陣から退がねがひびいていたが、ほとんど、東国勢はすでにどこかへ散ったあとだった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やア退がねが聞こえるわ、さては桂子め落ち行く気か! ……やア松明たいまつの火が見える! ……一点、二点、……十点、二十点……縦隊をなして移って行くわ! ……はてな、あの光
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白の狩衣、紅梅小袖、ともしびの影にちらちらと、囃子の舞妓、芸妓など、霧に揺据ゆりすわって、小鼓、八雲琴やくもごと調しらべを休むと、後囃子あとばやしなる素袍の稚児が、浅葱桜あさぎざくらを織交ぜて、すりがね、太鼓のも憩う。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、敵陣営の防柵の近くまであらしまわったが、ほどなく味方の退がねを聞いたので、彼らは、勝ち誇った姿を返して、渡辺橋を一せいに退いて来た。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時々灰吹の音も、一ツがねのようにカーンと鳴って、寂然しんと耳に着く。……
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……この風態で尾行つけられたのでは紋太郎渋面をつくる筈だ。破れた三度笠を背中に背負い胸に叩きがねを掛けているのは何んの呪禁まじないだか知らないけれど益〻仁態を凄く見せる。それで時々ニタリと笑う。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あのさい、林冲りんちゅう史進ししん秦明しんめいなどに囲まれて、御辺ごへんの身、危うしと見たので、突嗟とっさに、退がねを鳴らさせたので……あとでは、さんざんに、宋江から怒られたが
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときに、国分佐渡守やほか二、三の部将が、およそ四、五百の兵をひきいて、藤田隊の横から、急に、がねを鳴らし、ときの声をあげ、さも大軍のように、わめせた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時しも、すでに紫の夕雲が、水滸すいこ蕭条しょうじょうたる彼方に真ッ赤な日輪をのんで沈みかけている。やがて、吹き渡る薄暮の暗い風のまにまに、相互とも、事なく退がねを打鳴らしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のみならず城の三方から、猛風に乗せて、ときの声、戦鼓のひびき、急激な攻めがねの音などがいちどに迫ってきたので、城兵は消火どころではなく、釜中ふちゅうの豆の如く沸いて狼狽しだした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき魏の中軍では、さかんに退がねを打ち叩いていた。龐徳は意外に思ったが、何か後方に異変でも起ったのではないかと、ともかくあわてて軍を収め、中軍司令の于禁に向って
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
退がねを乱打しながら、隅田、高橋以下何千人、大江の岸までなだれ退がったが、さらに「大河を背後うしろにしては」と、渡辺橋を北へ、争って渡りかけるやいな、とつぜん起った惨事だった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方に、さかんなる貝が鳴れば、一方もがねを乱打して、各〻、武者声をたす
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謙信が人いちばい目をかけていた山本帯刀たてわきなどは、阿修羅あしゅらとさえ称ばれた者であった。いつの戦いでも、退がねが鳴って味方が退き出しても、いちばん最後でなければ敵中から帰って来なかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同時に、茂山一帯の陣地では、かかがね押太鼓おしだいこが乱打されていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
退がねを打て、黄忠を退かせろ」と、高矢倉から叫び出した。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「みすみす岸を踏みながら、俄にまた、退がねとは」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俄に、督戦とくせん乱声らんじょうは、退がねにかわっていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関平はたちまち退がね鳴らして兵を収めた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「追うな、退がね打て」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)