遁路にげみち)” の例文
恋ある人は恋を思ひ、友ある人は友をおもひ、春の愁と云はるる「無聊の圧迫」を享けて、何処かしら遁路にげみちを求めむとする。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あいちやんは何處どこ遁路にげみちをとおもつてさがしましたが、不思議ふしぎにも、つからないやうには何處どこへもかれませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
彼女は、ここまで来ても遁路にげみちのなかったのを知らされたような沈着を心に感じた。病気に、心と心との撃ち合う音のない争いをやめさせる力は、なかった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
支倉が窮余の極、漸く一方に遁路にげみちを開いた苦肉の策だった電車未開通説は物の美事に打ちのめされたのだ。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
神がこの世にいますなら、どうかたすけてください、どうか遁路にげみちを教えてください。これからはどんな難儀もする! どんな善事もする! どんなことにもそむかぬ。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
驚きてわが走り寄る時、遁路にげみちあきたれば潜り抜けて、猫は飛び出で、遠く走る音して寂然ひっそとなりたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平一郎はそこに設けられた慈愛の遁路にげみちを感づいたけれど、超意思的に「いいえ」と答えてしまった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
その幻の墓が見えるところまでちて行く前には、彼は恥ずべき自己おのれを一切の知人や親戚しんせきの眼から隠すために種々な遁路にげみちを考えて見ないでもなかった。知らない人ばかりの遠い島もその一つであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
相「何方どちらへか遁路にげみちはございませんか」
『それはせま遁路にげみちだつたのよ!』と云つてあいちやんは、きふ變化かはりかたには一方ひとかたならずおどろかされましたが、それでもうして其處そこつたことを大層たいそうよろこんで
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
其處そこ遁路にげみちこしらく、間道かんだう穴兵糧あなびやうらうくだん貯蓄たくはへ留桶とめをけみづを、片手かたてにざぶ/\、とつては、ぶく/\、ざぶ/\とつては、ぶく/\、小兒こども爪尖つまさきひざから、またへそからむねかたから咽喉のど
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大袈裟おおげさに言えば、それこそ、さあ、と云う時、遁路にげみちの無い位で。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)