通暁つうぎょう)” の例文
一、俳句以外の文学にも大体通暁つうぎょうせざるべからず。第一和歌、第二和文、第三小説、謡曲、演劇類、第四支那文学、第五欧米文学等なるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼の友勝海舟彼を評して曰く、「先生博学多識、文武を兼ぬ、末技小芸といえども、通暁つうぎょうせざるなし。為人ひととなり英邁えいまい不群ふぐん、一見その偉人たるを知る」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
伝へにれば、彼女は羅典、希臘ギリシャをはじめ、ヘブライ、カルデヤ、アラビヤ、仏蘭西フランス伊太利イタリヤと、都合七つの外国語に通暁つうぎょうしてゐたことになつてゐる。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
予は従来筆記ひっきおきたる小冊を刊行かんこうし、これを菊窓偶筆きくそうぐうひつと名づけ世におおやけにせんと欲し先生に示したれば、先生これを社員しゃいんそれ等の事に通暁つうぎょうせる者に命じ
彼はそうして、偽阿房にせあほうを装いながら、失敗する度に何かしら覚込おぼえこむ方法によって、またたく内に、菰田家内外の、種々さまざまの関係に通暁つうぎょうすることが出来ました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仏伊の通俗楽に通暁つうぎょうした彼にとっては、その豊饒ほうじょうなる創作力を傾けて、美しき組曲、序曲、その他の器楽曲を生産せしむる唯一の機会でもあったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
この時の、私の気持は、妙なものでした。私は自分を、女の心理に非常に通暁つうぎょうしている一種の色魔なのではないかしらと錯覚し、いやらしい思いをしました。
たずねびと (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかしそればかりではなく、あらゆる医学に通暁つうぎょうしています。世にも稀なる大天才ですね。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
ちなみにジッド氏は文学に通暁つうぎょうし、あらゆる技法を心得、縦横に知識を用い、術をつくし、ある時は型を破って、小説をつくる技師であるが、本当の小説家だとは私は思っていない。
披露ひろうしたら、ふだん遊女の心理には通暁つうぎょうしていると自称する朋輩の一人から
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
地上の事に限らず、死後の世界にいても、彼程、通暁つうぎょうしている者はない。
セトナ皇子(仮題) (新字新仮名) / 中島敦(著)
むかし西洋で犯罪者を所刑にする時に、本人が国境外に逃亡して、とらえられん時は、偶像をつくって人間の代りにあぶりにしたと云うが、彼等のうちにも西洋の故事に通暁つうぎょうする軍師があると見えて
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
マンハイムとその友人らは、パリーの文学的および社交的方面に通暁つうぎょうしていた、もしくは通暁してるふうを見せかけていた。聞きかじった巷説こうせつやまたは多少了解してる事柄を、盛んにくり返していた。
すなわ上下じょうか議院の宏壮こうそう竜動府ロンドンふ市街の繁昌、車馬の華美、料理の献立、衣服杖履じょうり、日用諸雑品の名称等、すべ閭巷猥瑣りょこうわいさの事には通暁つうぎょうしていて、骨牌かるたもてあそぶ事も出来、紅茶の好悪よしあしを飲別ける事も出来
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さて読者諸君、探偵小説というものの性質に通暁つうぎょうせらるる諸君は、お話は決してこれ切りで終らぬことを百も御承知であろう。如何にもその通りである。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その死体を実験室のかまどで灰にして了おうとした、ウェブスター博士の話、数ヶ国の言葉に通暁つうぎょうし、言語学上の大発見までしたユージン・エアラムの殺人罪、所謂いわゆる保険魔で
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
われわれの仲間には、このジャングルの秘密に通暁つうぎょうしているやつが、たくさんあるんだからね。だが、君のおかげで犯人が浅草公園へはいったことがわかっただけでも、大した収穫だ
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
少しも隙間すきまのない、高い樹木の壁で通路を作り、面積は僅か一丁四方程の中に、一里に余る迂余曲折の細道を作ってあるのだから、世界迷路史に通暁つうぎょうせる達人といえども、その中心をきわ
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
家人に悟られるのを恐れて、お互に言葉を交わすことは控えたが、私達は一度毎に、双方の目使いの意味に通暁つうぎょうして行った。そして、随分複雑な微妙な眼の会話を取交すことが出来た。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)