辻斬つじぎり)” の例文
宵の口といひ、この月夜に辻斬つじぎりでもあるまい。かの侍も地にうつる怪しい影をみて、たちまちに斬り倒してしまつたのかも知れない。
その頃、この江戸には夜な夜な不可解なる辻斬つじぎりが現れて、まるで奉行ぶぎょう与力よりきもないもののように大それた殺人をくりかえしてゆく。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにかと思うと、神田の和泉橋に、辻斬つじぎりが出る。辻斬はめずらしくないが、ひどく達者ものらしいから、逆に、辻斬を辻斬しようという。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それならいいが、笹野の旦那が折入っての頼みというのは、——近ごろ御府内を荒らし廻る辻斬つじぎりとらえるか、せめて正体を突き止めろというのだ」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
人を嚇してみるにはよいところ、朱雀野すざくの真只中まっただなか、近来ここでは追剥おいはぎ辻斬つじぎりとが流行はやる、遊客は非常な警戒をした上でなければ通らないところです。
文久慶応の頃は人心のはなはだ殺伐な時で、辻斬つじぎりがしばしば行われた。源三郎は或夜御成道おなりみちで何者にかくびを斬られた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其処そこにも此処ここにも毎夜のように辻斬つじぎりとて容易に人を斬ることがあって、物騒とも何ともうに云われぬ、れからはかま股立ももひきとって進退に都合のいように趣向して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
弁慶が辻斬つじぎりをしたのは橋の袂である。鍋焼うどんや夜鷹よたかもまたしばしば橋の袂を選んで店を張った。
を善くして、「外浜画巻そとがはまがかん」及「善知鳥うとう画軸」がある。剣術は群を抜いていた。壮年の頃村正むらまさ作のとうびて、本所割下水わりげすいから大川端おおかわばたあたりまでの間を彷徨ほうこうして辻斬つじぎりをした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大上段に大刀を振り上げて待ち構えている辻斬つじぎりの前へ、ヨチヨチなにも知らないで歩いていく老いぼれ爺さんのような心持ちがした、今や関西の落語界全体というものが。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
いま憂慮きづかひなし。大塚おほつかより氷川ひかはりる、たら/\ざかは、あたか芳野世經氏宅よしのせいけいしたくもんについてまがる、むかし辻斬つじぎりありたり。こゝに幽靈坂いうれいざか猫又坂ねこまたざか、くらがりざかなどふあり、好事かうずたづぬべし。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「急に血相を変えて、なにをやるというんです。辻斬つじぎりなんぞ、いやですぜ」
「大丈夫、紙一枚というところで助かったよ。ひどいことをする奴があるものだね。辻斬つじぎりにしちゃ不手際だが——」
「そのほか辻斬つじぎり流行はやる、女の子は手込てごめにされる、京都みやこへ近いこのあたりでも、ほんとに気が気ではありませぬ」
辻斬つじぎりか。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お聞きなされましたか、昨日とやら大菩薩に辻斬つじぎりがあったそうにござります」
辻斬つじぎりでしょうね、ひどい事をするじゃありませんか」