身寄みより)” の例文
しかし身寄みよりのものでもあるなら、折角うつした写真だけは届けてやりたいとも思ったが、無論そんな手蔓てづるのあろうはずもなかった。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あの人は身寄みよりもなくて寂しく暮していられるのだから、あなたが一緒になって、世話をして上げたらどうか」とのことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
伏原も小網町の魚問屋に身寄みよりがあり、山口も妻の里方がどうかなる家柄だからだ。おれ達夫婦には、この江戸表に一軒の縁者もありはしない。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ貴方あなた段々だん/″\詮索あらつて見まするとわたしと少し内縁ひつかゝりやうに思はれます、仮令たとへ身寄みよりでないにもせよ功徳くどくため葬式とむらひだけはわたし引受ひきうけて出してやりたいとぞんじますが
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
最近東京に於て結成された瑪瑙座めのうざと言う新しい劇団の出資者で、大月と同じ大学をえた齢若い資産家であるが、不幸にして一人の身寄みよりをも持たなかった代りに
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
屍体解剖を行われました人間の身寄みよりの者は、大抵、その翌日のうちに遺骨を受取りに来るように通知が出されるのでありますが、実は、解剖が済みますと直ぐに
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子も同胞きょうだい身寄みよりもないので家も近し、似よった年頃だと云うのでよく祖母の家へ話しに来るのである。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あざむ賣代うりしろ成せし處しかと身元請人等相調べずかゝへ置候段行屆かざるに付過料くわれう三貫文申付る尤も小夜衣事はすぐに證文差許さしゆるし岩井村百姓十兵衞身寄みより太郎作へ引渡しつかはすべし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ははは、わしは神尾の友達でもないし、もとより身寄みよりでも親類でもない、お前方と同じように、神尾主膳のためにとらえられて、この古屋敷の番人をしているのじゃ」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あの人には身寄みよりも何んにもございません、——何處へ行く當てもない筈です」
「でもこんな場合には誰か身寄みよりのものが立ち合わなくっちゃ悪いんでしょう」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、彼女かのじょは兄をやさしく愛していたし、兄も口には出さないが彼女を大切たいせつにしていた。彼等は二人ふたりきりでほかに身寄みよりものもなかった。二人ふたりとも生活のためにひどく苦労くろうして、やつれはてていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ソレも確めることが出来ない、れについて江戸に親戚身寄みよりの者に問合といあわせたけれども、嫌疑けんぎを恐れてかただの一度も返辞へんじを寄越した者がない、ソコで君の処に聞きにやったら何か様子が分るだろうと思うが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして、風雨の中を夢中で逃げ、身寄みより漁師りょうしの家の床下、干鰯倉ほしかぐらの闇、釣舟の中の幾日と、覚えきれない程な惨苦をなめて、やっと、奥州船へ乗り澄ましたのであった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殺せし覺えなく又白妙しろたへ身寄みよりの者の申立るにより白妙が親濱松はままつの松下專庵せんあん後家ごけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とぶら小夜衣さよぎぬは千太郎が横死わうしせしは我身よりおこりし事とわするゝひまのなくばかりなれば在所ざいしよ身寄みより太郎作へ引渡ひきわたされしゆゑ所々より嫁にもらはんと言込いひこむ者のかず有ども兩親の菩提ぼだいためあまに成らんと姉妹はらから兩人ふたり心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)