谷町たにまち)” の例文
ある日、頼みたい用事があって本郷湯島から谷町たにまちをへだてたところに住む中村不折ふせつさんの以前の住まいをたずねたことがありました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鈴木町すゞきまちの代官根本善左衛門ねもとぜんざゑもん近郷きんがう取締とりしまりを托したのが一つ。谷町たにまちの代官池田岩之丞いはのじよう天満てんまの東照宮、建国寺けんこくじ方面の防備を托したのが二つ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
重吉が麻布あざぶ谷町たにまちの郵便局から貯金を引出して帰って来たその日、お千代は稼ぎに出たまま夜ふけになっても帰って来なかった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
金右衛門の一行四人は先ず四谷塩町しおちょうの親類をたずねて、ここで午飯ひるめしを馳走などになって、それから千駄ヶ谷谷町たにまちに住んでいる親類をたずねることになりました。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まざ/\と譫言たはことく……われらをんなつたりや、とひますと、それらいでなにをする……今日けふ晩方ばんがた相長屋あひながや女房にようぼはなした。谷町たにまち湯屋ゆやうたげな。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
麻布の家は谷町たにまちを見おろす市兵衛町の崖の上に建っている。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
いち谷町たにまちから仲之町なかのちょうのぼる間道に古びた石段の坂がある。念仏坂ねんぶつざかという。麻布飯倉あざぶいいくらのほとりにも同じような石段の坂が立っている。雁木坂がんぎざかと呼ぶ。
大阪の東町奉行所は城の京橋口きやうばしぐちの外、京橋どほり谷町たにまちとの角屋敷かどやしきで、天満橋てんまばし南詰みなみづめ東側にあつた。東は城、西は谷町の通である。南の島町通しままちどほりには街を隔てて籾蔵もみぐらがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
車の通れぬ急な坂をば鮫ヶ橋谷町たにまちり貧家の間を貫く一本道をば足の行くがままに自然おのずとかの火避地に出で、ここに若葉と雑草と夕栄ゆうばえとを眺めるのである。
西が知源寺ちげんじ摂津国町つのくにまち又二郎町またじらうまち、越後町、旅籠町はたごまち、南が大川、北が与力町をさかひとし、大手前から船場せんばへ掛けての市街は、谷町たにまち一丁目から三丁目までを東界ひがしさかひ上大かみおほみそ筋から下難波橋しもなんばばし筋までを西界にしさかひ
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わがとはいち谷町たにまち窪地くぼちを隔てしのみなれば日ごと二階なるわが書斎に来りてそこらに積載つみのせたる新古の小説雑書のたぐひ何くれとなく読みあさりぬ。彼女もと北地ほくちの産。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
三年前麻布あざぶ谷町たにまちに間借りをしていた頃、お千代をたずねて来て一晩泊って行った吉岡つゆという女で、去年十二月の初め『毎夕新聞』にその名をさらされた連中の一人である。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お千代が貯金をしている郵便局は麻布あざぶ六本木ろっぽんぎ阪下さかしたにある谷町たにまちの局である。それはこの春桜川町へ引移るまで一年あまり、その近くの横町よこちょうに間借をしていたことがあったからで。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)