謝絶ことわ)” の例文
この猛烈なる悪態あくたいで浮足立った人が総崩そうくずれになって、奔流ほんりゅうの如く逃げ走る。兵馬に槍を貸すことを謝絶ことわった役人連中までが逃げかかる。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自己おの小鬢こびんの後れ毛上げても、ええれったいと罪のなき髪をきむしり、一文もらいに乞食が来ても甲張り声にむご謝絶ことわりなどしけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
註文取はたつぷり愛嬌笑ひを見せながら、これまで通り取引を続けて欲しいと頼むだが、瑞西の商人は苦り切つた顔をしてきつぱり謝絶ことわつた。
といふは、もし根津の寺なぞへ持込んで、普通の農家の葬式で通ればよし、さも無かつた日には、断然謝絶ことわられるやうな浅猿あさましい目に逢ふから。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
せめて旅館まででも送ろうと云う主催者を無理から謝絶ことわり、町の中を流れた泥溝どぶあしの青葉に夕陽のふるえているのを見ながら帰って来たところであった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「あんまりそんな真似をすると、謝絶ことわッてやるからいい。ああ、自由ままにならないもんだことねえ」と、吉里は西宮をつくづくて、うつむいて溜息をく。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
すると一日あるひ一人ひとり老叟らうそう何所どこからともなくたづねて來て祕藏ひざうの石を見せてれろといふ、イヤその石は最早もう他人たにんられてしまつてひさしい以前から無いと謝絶ことわつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
で、次の町内のものが、その床屋へ飛び込むと、変な顔をして謝絶ことわったりしたものです。
「なぜといってそうではないか、女郎屋の亭主から謝絶ことわられたのだ」「男冥利おとこみょうりでございますよ」「おれもそう思って諦めている」「それが一番ようございます。諦めが肝腎でございます」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、オダン夫人は考えぶかく同乗のひとの好意を謝絶ことわった。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
関所で駕籠乗物の用意をするというのを謝絶ことわって、やはり馬で行きました。険岨けんそな道へかかったら馬から下りて歩くと言って出て行きました。
そして、又レンズの前へ立ったところで、又機械に故障が出来たと云って謝絶ことわられた。僧侶は業をにやして
レンズに現われた女の姿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さういふてあひのなかにたつた一人の女商人をんなあきんどがあつた。幾度いくたびか面会を謝絶ことわられても性懲りもなくまたやつて来るので、徳富氏も流石に気の毒になつて会つてみる事にした。
明日なら出来るが今夜は一文もないと謝絶ことわられた。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と恩を忘れて謝絶ことわりける。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
竜之助は額を押えて薬も水も謝絶ことわる。しかしながらよほどの苦しみには、うつむいたかおが下るばかりです。
売卜者は醜いむすめの姿を何時の間にか見ていた。彼は厭で厭でたまらなかったが、恩人の詞をすげなく謝絶ことわるわけにも往かなかった。彼はしかたなく承知してしまった。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と顔色を違へて謝絶ことわるので
と言って、余儀なく謝絶ことわられてしまいました。林屋というのと殿村というのと、そのいずれも満員です。
いよいよ初日しょにちふたをあけた日、人気は予想の如く、早朝から木戸口へ突っかける人はうしおの如く、まもなく大入り満員となって、なお押寄せて来る客を謝絶ことわるために
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するとも——あの薬屋の源太郎めは、わしの親から、お前さんを貰いたいと頼んだのに、てんから謝絶ことわってしまいやがった。あの丹後守は、お前を隠して、わしに会わせなかった。
茶袋は執念しゅうねく談じつける。店の者はそれを謝絶ことわるにこうじているらしくあります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
行手に危険がわだかまろうとも、深夜であろうとも、辻斬が流行はやろうとも、ひとたび病家の迎えを受けた以上は、事を左右に托してそれを謝絶ことわるような先生ではありません——武士が戦場へ臨む心で
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)