衣笠きぬがさ)” の例文
料亭「衣笠きぬがさ」のおりうとの噂が耳にはいり、その意見をしに来たのだろう、そう思ったけれども、益村はなにも云わなかった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
衣笠きぬがさのふきおろしは、小禽ことりの肌には寒すぎた。チチチチチ野に啼く声もおさなく聞えて耳に寒い。人々は、さやの中の刀から腰の冷えて来る心地がした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女形の衣笠きぬがさや四郎五郎なぞという俳優の現代物が、雨漏あまもりのした壁画のような画面を展開していたにすぎなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雑誌『中央美術』を経営してゐる田口掬汀きくてい氏がこなひだ京都の衣笠きぬがさ村に画家の土田麦僊氏を訪ねた事があつた。
御新造ごしんぞが娘にいっているんだ——あれ、変な奴が、衣笠きぬがささんのお裏口をのぞいている、このごろこまかい物が、よくなくなるが、屹度きっとあいつがるんだよ、泥棒だ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
司令艦の衣笠きぬがさから青葉あおば古鷹ふるたかという順序で見る見るうちに、艦首が左へ、ググッと曲って行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宵を過ごした初夏の夜で、衣笠きぬがさ山の方へでもけるのであろう、杜鵑ほととぎすの声が聞こえてきた。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
衣笠きぬがさ氏の映画を今まで一度も見たことがなかったが、今度初めて見てこの監督がうわさにたがわずけた違いにすぐれた頭と技倆ぎりょうの持ち主だということがわかったような気がする。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さて淨書して之房の道柏、利安の卜庵に被見ひけんを請うたのが、寛永三年十一月十二日である。道柏、卜庵はすぐに奥書をして、小林内匠たくみ衣笠きぬがさ卜齋、岡善左衛門の三人に披露を頼んだ。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
主人三浦介の孫娘に衣笠きぬがさというのがある。自分の代々住んでいる城の名を呼ばせるくらいであるから、その寵愛はいうまでもない。ことし十六で相模一国にならぶかたもない美女である。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小山田おやまだ、江戸、葛西かさいなど七党の兵二千余騎が集められて、再び三浦の衣笠きぬがさの城に攻撃をかけ、一日一夜攻め続けて大介は討ちとり、残った子供たちは九里浜の浦より舟で安房、上総へ渡った
「あなた、衣笠きぬがささんにお頼み致しましょうか?」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ひょうのようにするどい『青葉あおば』『衣笠きぬがさ
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
いつものごとく、清滝から衣笠きぬがさへかけてたかをこころみに出たのであった。ところが留守の法印から容易ならぬ使いを飛ばして来たものだった。
加古かこ古鷹ふるたか青葉あおば衣笠きぬがさの艦列から千メートル手前に、真白な、見上げるように背の高い水煙が、さーッと、奔騰ほんとうした。どれもこれも、一定の間隔を保って、見事に整列していた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「三浦介殿……。では衣笠きぬがさの三浦介殿でござりますな」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
みょう六月二十二日、衣笠きぬがさなる北山殿へ、蛍狩りの御遊ぎょゆうと、つとに御内定をみております。もとよりこれは、西園寺家から特に臨幸を仰いだもので」
日本艦隊の加古かこ古鷹ふるたか衣笠きぬがさ以下の七千トン巡洋艦隊は、その快速を利用し、那智なち羽黒はぐろ足柄あしがら高雄たかお以下の一万噸巡洋艦隊と、並行の単縦陣型たんじゅうじんけいを作って、刻々こくこくに敵艦隊の右側うそくねらって突き進んだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二人の悪者は山歩きには馴れているらしく、衣笠きぬがさの峰づたいに千本へ出て、やがて蓮台野れんだいのの枯れたかやの中を半身も没しながらざわざわとどこかへ歩いてゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
望楼を降りて来ると、出会いがしらに、衣笠きぬがさ久左衛門とばったり会った。勿論もちろん、久左衛門は姫路から馬をとばして来たのである。それを意外として、官兵衛は責めるように訊ねた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここ数日らい、衣笠きぬがさのおくに潜んで、先帝奪回をもくろんでいた一味のやからです」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも桂川から丹波ざかいはあぶないので、嵯峨から北、衣笠きぬがさからひがし、いたるところの山野には疎開小屋がみえ、農家には同居人があふれ、中には穴住居しているような家族もあった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北山殿とは、洛外衣笠きぬがさ村大北山のすそで「増鏡」内野の雪ノ巻に
高からぬこの山にのぼるとすれば、西に愛宕あたごや、衣笠きぬがさみねかげ、東はとおく、加茂かもの松原ごしに、比叡ひえいをのぞんでいる。さらに北をあおぐと、竹童ちくどう故郷ふるさと鞍馬山くらまやま翠巒すいらんが、よべば答えんばかりに近い。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いま衣笠きぬがさ久左衛門様がお見えになりました」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)