蕁麻いらくさ)” の例文
夢の中でも、私は、強情な植物共のつるを引張り、蕁麻いらくさとげに悩まされ、シトロンの針に突かれ、蜂には火の様にされ続ける。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかしこれと比べて柔かいなと言われたムシブスマとても、蕁麻いらくさで製したとすれば相応にこわ張ったものであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それはごく新しくしるされたもので、その線はまっ黒な古い漆喰しっくいの中に白く見えており、壁の根本にある一叢ひとむら蕁麻いらくさは新しい漆喰の粉をかぶっていた。
少女たちが瘠せ細りながらも神経がやや脂肪づき、かく卯薔薇うばらほどの花になつて咲く年齢になつても、明子だけは依然色をくした蕁麻いらくさとして残つた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
「ただ、蕁麻いらくさに刺されただけですよ、あの亡くなつた祭司長の言ひぐさではないが、この毒蛇まむしみたいな草にね。」
なかば焼けなかば腐った大きな木のはりが、廃墟全体を区分けしているのを見た、やがて焼かれて打ち砕かれた建物の残骸の中に立ってみると、雑草や蕁麻いらくさ
さてこの一行が、籬の蕁麻いらくさ山牛蒡やまごぼうの中に眠っているリザヴェータの姿を見つけたというわけである。
時のたつのは何と早いものだろう! オーレンカの家はすすぼけて、屋根はび、納屋はかしぎ、庭には丈の高い雑草やとげのある蕁麻いらくさがいっぱいにはびこってしまった。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その頭上にはとねりこかしが、半かけの月光や星の光を、枝葉の隙からわずかこぼし、野葡萄のぶどう木賊とくさ蕁麻いらくさすすきで、おどろをなしている地面の諸所へ、銀色の斑紋を織っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女の連れは、ゆっくりあとから歩いて行き、うす暗がりから抜け出して、彼女がまわりにはびこった草や蕁麻いらくさの中に両脚を隠して、井戸の端にすんなり腰かけているのを見た。
蕁麻いらくさで織った贖衣を素肌に着、断食をし、滝のように涙を流して懺悔の祈祷いのりをする。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
キヤベツや薔薇の藪にたかつてゐる木虱は緑色をしてゐるし、接骨木や、豆や、けしや、蕁麻いらくさや、柳、ポプラのは黒、樫とあざみのは青銅色、夾竹桃や胡桃くるみとかはんのきとかにつくのは黄色だ。
小屋にはもう戸がないからだ。ひとむら蕁麻いらくさがひょろ長く伸びて、しきいをかくしている。で、にんじんが腹這いになってそれを眺めると、まるで森のようだ。細かいほこりが土をおおっている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それから海蜈蚣すなわちゴカイが人をめば毒あるのみならず触れても蕁麻いらくさに触れたように痛むというた、十二年前東牟婁郡勝浦港に在った時、毎度その近傍の綱切島辺の海底に黄黒斑で二
おきながかくかたりし時牧之ぼくしいらの形状けいじやうをくはしくきかざりしが、のちあんずるにいらとは蕁麻いらくさの事なるべし、蕁麻たんまは本草に見えたるくさの名也。あさの字にじゆくしたればあさかへても用ふべきものなるべし。
「いはらき」は我目正しけば蕁麻いらくさの手にも觸るべくあらざるが如
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その少女たちが蕁麻いらくさの明子をどうしてぎつけずにゐよう。彼女らの或る者は嗅ぎつけない前に、この蕁麻に皮膚を破られて痛々しく貧血質の血を流した。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
この可哀さうな男はどうかしてその悲しみを払ひ落さうと思つたのだが、それは無駄なことだつた。火酒はまるで蕁麻いらくさのやうに彼の舌を刺して、苦蓬にがよもぎの汁よりも苦く思はれた。
男は連れのよろめきがちな足どりを助けながら、崩れた煉瓦組みの山を越えて、小道の方へ行った、蕁麻いらくさが手をちくちく刺し、ハリスは夢の中にいるような気分で道をたどった。
蕁麻いらくさが氷河の上に生じないごとく、卑しい考えは一つもそこに生ずることを得ない。
潮滿つと波打つ磯の蕁麻いらくさの茂きがなかにさける濱木綿
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
にんじんは心の中でいう——「そうそう、ひっぱたけ! 蕁麻いらくさでもへし折るがいい。秣掻まぐさかきの真似まねでもしろ! もしおれが兎で、溝のくぼみか、葉の蔭にんでいるんだったら、この暑さに、ひょこひょこ出かけることはまず見合わせだ!」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
三二 蕁麻いらくさ
瀝青チャンを塗った柳編みの屋根のついてる一種の従軍行商人の小さな車のようなものが止まっていて、くつわをつけたまま蕁麻いらくさを食ってる飢えたやせ馬がそれにつけられていて、その車の中には
道や広い蕁麻いらくさの茂みの中を玉のやうに転がつてゆく。
階段のうちに包囲されて上連に追いつめられたイギリス兵は、下連の階段を切り落としてしまった。蕁麻いらくさのうちにうずたかくなってる青い大きな板石がそのなごりである。十段ばかりはまだ壁についている。
その気味悪い蕁麻いらくさはこの百合ゆりを愛して保護してきたのであった。
井戸のまわりや壁の下の方は、一面に蕁麻いらくさにおおわれている。