胼胝たこ)” の例文
休日にもまだ炭のや器械油の附いてゐる、胼胝たこの出来た手が鳴る。これが本当のおなぐさみだ。一週間の、残酷な日傭稼ひようかせぎの苦も忘れられる。
防火栓 (新字旧仮名) / ゲオルヒ・ヒルシュフェルド(著)
やがて皮削かわそ庖丁ぼうちょうや縫針で、胼胝たこの出来た手で、鼓や太鼓のばちをもち、踊りも、梅にも春や藤娘、お座敷を間に合わせるくらいに仕込まれた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「長くやっているから、声帯に胼胝たこが出来ている。獣医の方では、蹄血斑ていけつはんという。その胼胝が痙攣けいれんを起して悲鳴を揚げると、君の謡曲になるんだ」
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ドンナニナルッテ、ソリャヒドイノヨ。足ノ趾ニ全部胼胝たこガ出来チャッテ、レ上ッテ爪モ何モナクナッチマウノヨ」
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こうした中を抜けつくぐりつ営業する真面目な職業婦人や、何々会なぞのやりにくさといったらないそうで、そんな不平は到る処耳に胼胝たこである。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
僕なんぞはもういい加減耳に胼胝たこが出来てもよさそうな筈だが、一向聞ききもせずに、にこにこしながら会槌あいづちを打っているのだから、これも不思議だ。
雉子日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
思うだけならいいんですが、その『トントン』の足裏に、畳をへこますほどにいつも擦りつけていたその足裏に、胼胝たこがなかったりして、駄目になったんです。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
長い旅に良寛さんはせて、大きい眼は一層大きくなつた。衣の肩はにやけ、足には草鞋わらぢ胼胝たこができた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
愛情はひざ胼胝たこを出かしてるイギリスの女中のように、すわり込んでぼんやりするために作られてはいない。そのためにではないんだ。愛情は愉快にさ迷う。
おい/\おっかさんが眼病で、弟御おとうとごが車を挽く事はお前さんが番毎ばんごと云いなさるから、耳に胼胝たこのいる程だが、ねいさんまアお母さんはあゝやって眼病でわずらってるし
こいつらの先祖は百姓か職人だからその子孫も握手して見れば判る。てのひら胼胝たこあとのこつてゐるさ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
足の蹠の胼胝たこを丹念に鋏で切り取るのだ。月に一二回は必ず切り取らなければ承知しなかった。
公孫樹 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
わが顏は寒さのため、胼胝たこのいでたるところにひとしく凡ての感覺を失へるに 一〇〇—一〇二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
文字の精は彼の眼を容赦ようしゃなく喰いあらし、彼は、ひどい近眼である。余り眼を近づけて書物ばかり読んでいるので、彼の鷲形の鼻の先は、粘土板とれ合って固い胼胝たこが出来ている。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
へ! いったいこういうものは誰がここへ持って来たのだね? これは勤勉なロシアの百姓が胼胝たこだらけの手でかせいだ一カペイカ、二カペイカの金を、家族や国家の入用を後回しにして
ひゞの入つた斑點に汚れた黄色い壁に向つて、これからの生涯を過去の所爲と罪報とに項低うなだれ乍ら、足に胼胝たこの出來るまで坐り通したら奈何どうだと魔の聲にでも決斷のほぞを囁かれるやうな思ひを
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
蜻蛉の辰の肩は、板のように固く、瘤のように胼胝たこができていたのである。
屡々足の上部外側に胼胝たこ、即ち皮膚が厚くなった人を見受けるが、その原因は坐る時の足の姿勢を見るに至って初めて理解出来る。鍛冶かじ屋は地面に坐って仕事をする(手伝いは立っているが)。
一体どうしてそういう妙な心持になったのであろう。まずその原因おこりから考えて見なければならない。武士の家に生れたその身は子供の時から耳に胼胝たこのできるほどいい聞かされた武士の心得武士の道。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
胼胝たこは打ち固められた決心の固さ
(新字新仮名) / 今村恒夫(著)
父がたび/\酒に酔っては口号くちずさんでいたことがあるので、耳に胼胝たこが出来るほど聞かされたものであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
... 私はいつも綿撒糸めんざんしばかりこしらえていたわ。ねえあなた、ごらんなさい、指に胼胝たこができてしまったわ。あなたが悪いのよ。」マリユスは言った。「おお天使よ!」
鼈四郎が向きはまって行ったのはそういう苦労胼胝たこで心の感膜が厚くなっている年長の連中であった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
浮力が減少したとは言え、瓦斯ガスが充満してさえいれば600キロの浮力を持つバルーンです。被害者は掌中に幾つもの胼胝たこを作りながら、夢中でバルーンを降してしまいました。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ああ東屋氏は、てのひらの胼胝たこで怪人物を突き止めるつもりだ。なるほどこれは名案だ!
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「なにてのひら……うん、小使にも細君にも、胼胝たこなどは出来ていなかったよ」
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
揉みはじめたのだがその足裏は、どうしたことかひどく硬くてへこまない。どうやら大きな胼胝たこらしい。博士は、今度はもう少し足を持ちあげて、そのおや指の尖端さきを灯の前へじ向けるようにした。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
第二に両手の掌中に残された横線をなす無数の怪し気な擦過傷。その中には幾つかの胼胝たこも含まれる。第三に、肩、下顎部、肘等の露出個所に与えられた無数の軽い擦過傷。と、まあこの三つだね。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
これは面白くなって来た、と思ったのもつか、やっぱり風間老人のてのひらにも胼胝たこは出来ていなかったと見えて、やがて老看守は倉庫の中へ入り、東屋氏は、今度は官舎のほうへ出掛けて行った。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)