なか)” の例文
「いいえ、怒ってなんかいませんよ、僕はお父さんのおなかの中を知っています、お父さんは頭より心のほうがよっぽどいいのです」
それくらいなこと誰でも分りきっていることのようで、実はなかなか琵琶の横木ほども、おなかに据えていられないのが人間でございますまいか。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夜ゆうべ、あんまり、苦しかったものですから、——それでも今朝けさは、おなかの痛みだけは、ずっと楽になりました。——」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
善くは思いませんばかりでも、おなかのことを嗅ぎつけられて、変な杖でのろわれたら、どんな目に逢おうも知れぬと、薄気味の悪いじじいなんでございます。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ですけれど、だ未だやつぱり浮気なので、この人も好いが、又あの人も万更でなかつたりなんぞして、究竟つまりなかの中から惚れると云ふのぢやないのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「恩人! 恩人!」と、私はおなかの中で叫んだ。「みんなが、リード夫人を私の恩人だと云つてゐる。もしさうだとすれば、恩人と云ふものは、いやなものだ。」
「本当よ。何だか知らないけれども、あたし近頃始終しじゅうそう思ってるの、いつか一度このおなかの中にもってる勇気を、外へ出さなくっちゃならない日が来るにちがいないって」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お茶の御ぜんをいたから。おなかがへったら。おむすびにでもしてあげようか。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
「そうですのよ。ですから私ロデスの夫人おくさまやグラナドスの夫人おくさまがおこぼしなさるから、相槌あいづちは打っていますけれど、おなかの中ではね……オホホホホホ」と妻は耳輪を重たげに檜扇ひおうぎで口許をおおって
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「へい、おなかが空きやした」これが田舎者の挨拶であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうなされた、おなかでも痛まれたか」
法華僧の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それが段々嬉しくなって、可愛らしくもなり、ついこういうことにもなったんだが、他愛なさも、仇気なさも、おなかを……可いかい、政府おかみへ知れりゃ罪人だぜ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はおなかの中には言ひたい事が沢山あるのだけれど、あんま言難いひにくい事ばかりだから、口へは出さないけれど、唯一言たつたひとこといひたいのは、私は貴方あなたの事は忘れはしないわ——私は生涯忘れはしないわ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「おなかはまだ痛むけれど、気分は大へん好くなったよ。」——母自身もそう云っていた。その上あんなに食気しょっけまでついたようでは、今まで心配していたよりも、存外恢復かいふくは容易かも知れない。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ばあさん、お前にもわたいうらみがあってよ、い加減なことをいってだましてさ、おなかが痛むかさすろうなんぞッて言っておくれだから、深切な人だと思ったわ、悔しいじゃあないかね。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やっぱりおなかが痛むんでねえ。——熱もまだ九度くどからあるんだとさ。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今の母様おっかさんの子で、姉様ねえさんの阿銀とはおなかが違っているのだけれど、それはそれは姉おもいの優しい子で、姉様が継母の悪だくみで山へ棄てられるというのを聞いて、どんなにか泣いたろう。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(いいえ、沢山、私はいやしいようなけれども、どうも大変におなかが空いたよ。)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでね、貴方、その病気と申しますのが、風邪を引いたの、おなかを痛めたのというのではない様子で、まあ、申せば、何か生霊いきりょう取着とッついたとか、狐が見込んだとかいうのでございましょう。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「やれやれ綺麗きれいな姉さんが台なしになったぞ。あてこともねえ、どうじゃ、切ないかい、どこぞ痛みはせぬか、おなかは苦しゅうないか。」と自分の胸を頑固な握拳にぎりこぶしでこツこツと叩いて見せる。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お止し遊ばせば可いのに、お妖怪ばけと云えば先方さきで怖がります、田舎の意気地いくじ無しばかり、おいら蟒蛇うわばみに呑まれて天窓あたまげたから湯治に来たの、狐に蚯蚓みみずを食わされて、それがためおなかを痛めたの
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)