耳語さゝや)” の例文
從者ずさは近きあたりの院に立寄りて何事か物問ふ樣子なりしが、やがて元の所に立歸り、何やら主人に耳語さゝやけば、點頭うなづきて尚も山深く上り行きぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
われ絶て此種の準備なしと答へしに、サンチイニイ頭をりて、否、そは隱し給ふなり、要するに君の如き怜悧なる人には此わざいと易しと耳語さゝやけり。
くぬぎなら雜木ざふきすべてが節制たしなみうしなつてことごと裏葉うらは肌膚はだかくすきがなくざあつとかれてたゞさわいだ。よるさびしさにすべてのこずゑあひ耳語さゝやきつゝ餘計よけいさわいだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まねき三人なにひそか耳語さゝやきけるがほどなく清三郎は出行いでゆきたり是は途中とちうにて惡者わるものに喧嘩を仕掛しかけさせ屋敷より請取うけとりきたる六十兩をうばひ又七は此金を受取うけとり遊女いうぢよがよひにつかこみしと云立いひたてそれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
などゝわざきこえよがしにならんで腰掛こしかけてとしわかをとこ耳語さゝやいてるのだ。
舟歌畢りしとき、主婦は我に對ひて、君は歌ひ給はずやと問ひぬ。われ、さらば即興の詩一つ試みばやと答へぬ。四邊あたりにはかれは即興詩人なりと耳語さゝやく聲す。
四五にんばあさん佛壇ぶつだんまへまれてあつた風呂敷包ふろしきづゝみきながらひそ/″\と耳語さゝやいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
剃手とこやの曲は終りて、われは獨り廣闊なる舞臺の上に立てり。座長レジツシヨオルは笑を帶びて我顏を打目守うちまもり、斷頭臺は築かれたりと耳語さゝやきて、道具方マシニストに相圖せり。幕は開きたり。
「まあ大丈夫だいぢやうぶだらうつて病人びやうにんへだけはいつてたらいゝでせう」醫者いしや耳語さゝやいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)