縁端えんばな)” の例文
台所へ廻ろうか、足をいてと、そこに居るひとの、呼吸いき気勢けはいを、伺い伺い、縁端えんばなへ。——がらり、がちゃがちゃがちゃん。吃驚びっくりした。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書肆ほんやはへと/\になつて、やつ縁端えんばなに腰をおろすなり、原稿の談話はなしを切り出すと、蘆花氏は頭の天辺てつぺんから絞り出すやうな声で
縁端えんばなへ出て言葉を交している工合ぐあいが、どうもそうらしいので、均平も何か照れくさい感じでそのまま女中の案内で二階の加世子の部屋へ通った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
細い長い竹竿たけざおのさきに、縫針ぬいばりくぎなどを附けたものさえ関東にはあった。それを垣根のすきからそっとさし入れて、縁端えんばなのお月見団子を取って行くのである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
竜之助は縁端えんばなへ出て、久助がさきほどきつけてくれた蚊遣火かやりびの煙を見ながら、これも先刻、久助が持って来てくれた三輪の酒を、チビリチビリと飲んでいました。
武兵衛は居酒屋の縁端えんばなにどっかり腰をおろしたが、何より先に茶碗酒をグビリグビリとやり出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
編物を始めた四五日後の事で有った、或日の夕暮、何か用事が有って文三は奥座敷へこうとて、二階を降りてと見ると、お勢が此方こちらへ背を向けて縁端えんばな佇立たたずんでいる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
夕食の後、家内の者は団扇を手に縁端えんばなで涼んでいるうち、こっそりと私はまだ明るい町へ抜け出した。早くも燈火ともしびのついた柳屋の店先にはもう二三人若者が集まっていた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「まだ早いじゃありませんか。日が当っていますぜ」と云いながら、坊主頭を両手で抑えて縁端えんばなにあらわれた。代助は返事もせずに、庭の隅へもぐり込んで竹の落葉を前の方へ掃き出した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
石田は防水布の雨覆あまおおいを脱いで、門口を這入はいって、脱いだ雨覆を裏返して巻いて縁端えんばなに置こうとすると、爺さんが手に取った。石田は縁を濡らさない用心かと思いながら、爺さんの顔を見た。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と外に向かつて命じ、すぐはかまをつけ、刀を掴んで縁端えんばなに出て来た。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
呉羽之介は縁端えんばなにて、しとやかに会釈しました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ある時書肆ほんやが徳富蘆花氏の原稿を貰ひに、粕谷かすやの田舎まで出掛けると、蘆花氏は縁端えんばな衝立つゝたつて、大きな欠伸あくびをしい/\
車を待っているあいだに、彼は葉子が女中と縁端えんばなで立話をしているすきにふと思いついて、小夜子の家へ電話をかけてみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さあ、それから米坊をかつぎ込んで、ちょうど縁端えんばな大胡坐おおあぐらをかいて毛抜をいじくってやあがった、鯰の伝をふんづかまえて、思うさま毒づいたとお思いなさいよ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
欄干に赤い襟裏えりうらの附いた著物きもの葡萄茶えびちゃはかまさらしてあることがある。赤い袖の肌襦袢はだじゅばんがしどけなく投げ掛けてあることもある。この衣類のぬしが夕方には、はでな湯帷子ゆかたを著て、縁端えんばなで凉んでいる。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、すぐに糸七が腰かけた縁端えんばなへ、袖摺れに、色香折敷くかがみ腰で、手に水色の半帕ハンケチを。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
縁端えんばなにあぐらをかいて、お猿や農科大学やの前途を考へてぼんやりしてゐると、植込みのつはぶきの蔭から、蟇蛙が一つのそのそ這ひ出して来て、悲しさうな顔をして溜息をついてゐた。
部屋に落着いたお島は、縁端えんばなへ出て、庭を眺めながら呟いた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)