絶々たえだえ)” の例文
九郎右衛門や宇平からは便たより絶々たえだえになるのに、江戸でも何一つしでかした事がない。女子おなご達の心細さは言おう様がなかった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「それぢや。……桜の枝にかかつて、射貫いぬかれたとともに、白妙しろたえは胸を痛めて、どつと……息も絶々たえだえとこに着いた。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
息も絶々たえだえに疲れて打ち倒れても、睡るとすぐにライフルの音が聞えたり、女の乱髪が顔を撫でたりする。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三日に一度が十日に一度になり、一と月に一度になり、三月に一度になり、明治九年の春からはそれも絶々たえだえになって、約半歳あまりは羅漢寺詣りも忘れて居りました。
いふさへ息も絶々たえだえなるに、鷲郎は急ぎ縄を噬み切りて、身体みうちきずねぶりつつ、「怎麼いかにや黄金丸、苦しきか。什麼そも何としてこの状態ありさまぞ」ト、かついたはりかつ尋ぬれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
雨はこの時漸くれて、軒の玉水絶々たえだえに、怪禽かいきん鳴過なきすぐる者両三声さんせいにして、跡松風の音颯々さつさつたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
実に一瞬ではあったけれど、私の絶々たえだえな気持ちによくむち打ってくれるものがありました。その恋愛は、私との愛情がまだ終りをつげないうちにほろんで亡くなってしまいました。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
灯影ほかげ明るい祇園町の夜、線香のけぶり絶々たえだえの鳥辺山、二十一と十七、黒と紫とに包まれた美しい若い男女が、美しい呂昇の声に乗ってさながら眼の前におどった。おしゅんのさわりはます/\好い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
梅岡うめおか何某なにがしと呼ばれし中国浪人のきりゝとして男らしきにちぎりを込め、浅からぬ中となりしよりよその恋をば贔負ひいきにする客もなく、線香の煙り絶々たえだえになるにつけても、よしやわざくれ身は朝顔のと短き命
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女は息も絶々たえだえになっている。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かくして少年ははたたなそこってちりを払ったが、吐息をいて、さすがに心ゆるみ、力落ちて、よろよろと僵れようとして、息も絶々たえだえなお雪を見て、眉をひそめて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お通の声は障子を隔てて絶々たえだえですが、涙に濡れて哀れ深く聴こえました。
今朝東京なる本郷病院へ、呼吸いき絶々たえだえ駈込かけこみて、玄関に着くとそのまま、打倒れて絶息したる男あり。年は二十二三にして、扮装みなりからず、容貌かおかたちいたくやつれたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
リストはこの時の光景をこう書いている——ポトカ夫人が涙に濡れながら「アヴェ・マリア」を歌うと、ショパンは「なんという美しさだろう。私の神様、もう一度、もう一度」と絶々たえだえに言った。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
掻寄かきよせたあとが小高くなッてて、その上へ大きな石が乗ッけてあって、そこまで小銀が辿たどってくと、一条ひとすじ細うく絶々たえだえに続いていた胡麻のあとが無くなっていたでしょう。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)