はずれ)” の例文
道の左には、半間ばかりの熊笹くまざさしげっていて、そのはずれからは十丈に近い断崖だんがいが、海へ急な角度を成していた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その赤い提燈は十けんばかりたがいへだたりを置いて三つ、東南の村口から入って来て何処どこへか消えてしまうのである。最初それを見付みつけたのが村のはずれに住んでいた百姓じじいであった。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その足音が廊下のはずれで止まったと思うと、松本が不思議そうな顔をして出て来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それより小道具衣裳方あり廊下のはずれより離れて団洲だんしゅうの室に至る。小庭こにわをひかへて宛然さながら離家はなれやていをなせり。表梯子おもてはしごのぼれば猿蔵さるぞう染五郎二人ににんの室あり家橘栄三郎これに隣してまた鏡台を並ぶ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
このとき崑崙こんろん山上の大火はまだんでいず、西の空のはずれは真赤であった。
不周山 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その頃村のはずれに小さな水車小屋を持っていましたが、毎日伊作の店に寄っては酒を飲んだり、干魚ひざかなたべたりして、少しも勘定を払わないので、それが土台になって二人はいつでも喧嘩をしました。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
ことに、美奈子達の占めた一室は、ホテルの建物の右の翼のはずれにあった。開け放たれた窓には、早川の対岸明神岳明星岳の翠微すいびが、手に取るごとく迫っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
家の外には雪がちらちらと降って、前の小川の水は独り寂寞せきばくを破ってささやいて流れている他、村のはずれに廻っている水車みずぐるまの音が静かな林や、田の中を通って其処まで聞えて来る。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その頃この町のはずれに一つの教会堂があった。堂の周囲まわりには紅いつたが絡み付いていた。夕日が淋しき町を照す時に、等しくこの教会堂の紅い蔦の葉に鮮かに射して匂うたのである。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
廊下のはずれに消えたとき、ドアの所に立って見送っていた美奈子は、自分の部屋へけ込むと、床に崩れるように、うずくまって、安楽椅子いす蒲団クションに顔を埋めたまゝ、しばらくは顔を上げなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
松原のはずれには、二条の鉄道線路が通っている。その線路には踏切番の小舎こやがある。小舎には爺さんがいて、汽車が通るたびに白い旗を出す。……四辺の景色が目に見えるようだ。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
村のはずれにあって、昔は、五百石取りの武士さむらいが住んでいたところであったが、いろいろと仔細があって衰微してしまって、その家は、古びて遂にこの程、取り壊されたので、その屋敷跡には
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)