へッつい)” の例文
明方になると、トロ/\と寝ました。……アヽ失策しまったと眼をいて見ると、お瀧はへッついの下を焚付けて居ますが松五郎は居りません。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
といって、またひっくり返した。かしらへッついの前に両足を拡げながら、片手で抜取って銀煙管ぎんぎせるくわえ、腰なる両提りょうさげふらふらとたばこを捻る。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暮につか煤掃すすはきの煤取りから、正月飾る鏡餅かがみもちのお三方さんぼうまで一度に買い調えなきゃならないというものじゃなし、おへッついを据えて、長火鉢を置いて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
浪「ちょいと/\お嬢さんの支度が出来たのを御覧よ、こんな美くしいお嬢さんをへッついの前にくすぶらして置いたと思うと勿体ない」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この途端にさっまぶたを赤うしたが、へッついの前を横ッちょに、かたかたと下駄の音で、亭主の膝を斜交はすっかいに、帳場の銭箱ぜにばこへがっちりと手を入れる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
めいめいに小さな飯鉢を控えて、味噌汁は一杯ずつ上さんに盛ってもらっている。上さんは裾を高々と端折はしょり揚げて、土間のへッついの前で立働いていた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
と腰障子を開けるとやっと畳は五畳ばかり敷いてあって、一間いっけん戸棚とだながあって、壁とへッついは余り漆喰じっくいで繕って、商売手だけに綺麗に磨いてあります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
馬に乗ったいきおいで、小庭を縁側えんがわ飛上とびあがって、ちょん、ちょん、ちょんちょんと、雀あるきにひらきを抜けて台所へ入って、おへッついの前を廻るかと思うと、上の引窓ひきまどへパッと飛ぶ。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下女「何うでございますか私は只台所のおへッついの下へ首を突込つッこんで居りましたから、しっかりとは分りませんでしたが、多分お怪我をなさいましたろう」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これは松のすしの源次郎で、蝶吉から頂いた、土付かずといってい大事の駒下駄を、芋を焼くへッついくべられた上に、けんつくをくらって面目を失ったが、本人に聞くより一段情無い愛想尽あいそづかしを
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えゝ一週間ひとまわりなり二週間ふたまわりなりお席をおきまして、お座敷つぼの内へへッついでも炭斗すみとり火鉢すべて取寄せまして、三週間みまわりもおいでになれば、またまかないのばゝあも置きまして、世帯をお持ちなさいますなら
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ばらしいへッついを二ツならべて一斗飯いっとめしけそうな目覚めざましいかまかかった古家ふるいえで。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「頭、あたんなさい、」とへッついうしろから皺嗄しわがれた声を懸ける。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)