盲者めくら)” の例文
生憎あいにく僕等には、昆虫や盲者めくらが持ち合わせているほど、空間に対する感覚が正確でないのですよ。それに、なにしろ衣裳が同じなものですからね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
三番目には散髪さんぱつに角帯をめた男とも女とも片のつかない盲者めくらが、紫のはかま穿いた女の子に手を引かれてやって来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何しろ周三は、其のさいがせきゝてゐて、失敗の製作までも回護かはふだけ心に餘裕よゆうがなかツた。雖然奈何なる道を行くにしても盲者めくらつえを持ツことを忘れない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
実に見せたかッたね、その疲曳よぼよぼ盲者めくらがいざとッて櫓柄ろづかを取ると、仡然しゃっきりとしたものだ、まるで別人さね。なるほどこれはそのみちに達したものだ、と僕はおもッた。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとふなり温順おとなしう嫁入よめいつてわたしを、自然しぜん此樣こんうんこしらへていて、盲者めくらたにつきおとすやうなことあそばす、神樣かみさまといふのですかなんですか、其方そのかたじつうらめしい
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老巧の久助もかおの色を変えました。この人は事をわけて相手をなだめるために下り立ったのではない、まさしく怒気をふくんで待ち受けているのです。病人であり、盲者めくらであるこの人が……。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
古いお弥撒みさ祈祷集おいのりぼんに、つらつツ込んでる盲者めくら等は
盲者めくらのやうに信じてあれ
この疲曳よぼよぼ盲者めくらたれとかす! 若い時には銭屋五兵衛ぜにやごへえかかえで、年中千五百石積こくづみを家として、荒海を漕廻こぎまわしていた曲者くせものなのだ。新潟から直江津ね、佐渡あたり持場もちばであッたそうだ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その案内者の腰に鈴を着けて、あとから来る盲者めくらがその鈴の音を頼りに上る事ができるようにしてあったのだと説明されて、やや納得なっとくもできたが、それにしても敬太郎には随分意外な話である。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)