當前あたりまへ)” の例文
新字:当前
そりやおなところんでるから、緋鯉ひごひくが當前あたりまへだけれどもね、きみが、よくお飯粒まんまつぶで、いと釣上つりあげちやげるだらう。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さう云ふことを云ふと、女は直ぐ辯解して、子供を可愛がるのは當前あたりまへのことで、何も恥ぢることはないと云ふが、それは餘裕のない畜生であるからである。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
會社に行くのとは全く方角が違ふのだが、同窓の先輩として、一度でも口をきいた人の死を弔ふのは當前あたりまへだといふやうないひ譯を心の中にたゝみ込んで居た。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
村内へ觸歩行ふれあるきしゆゑ村中一とう此頃の寺の動靜やうすさては然る事にて天一樣は將軍家の御落胤にて今度こんど江戸へ御出立になれば二度御目通り成ねば當前あたりまへさらば今の内に御目見おめみえ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ちよいと油斷をすると、すぐあなたの側へ來る。あなたにはあれが當前あたりまへに見えて。えゝ。氣味が惡い。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ラクダルは無言むごんのまゝ手眞似てまね其處そこすわらした。親父おやぢ當前あたりまへすわる、愚息せがれはゴロリころんであし蹈伸ふみのばす、この臥轉ねころかた第一だいゝち上出來じやうできであつた。三人さんにんそのまゝ一言ひとことはつしない。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
蕎麥そば、お汁粉しるこなど一寸ちよつとはひると、一ぜんではまず。二ぜんは當前あたりまへ。だまつてべてれば、あとから/\つきつけ習慣しふくわんあり。古風こふう淳朴じゆんぼくなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
當前あたりまへの人の聲なら、氣にはならなくつてよ。一通ひととほりの人ではないのですものを。お金はみんな持つて行つて、好い加減にしてゐて、あなたをまで取つてしまはうと思つてゐるのですものを。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「どうせよごれた體ですもん、どうならうとかまふもんですか。御客だつてさうですわ。たかのしれたお金で人をおもちやにするのですさかい、ちつとやそつとのむくいは當前あたりまへでつしやろが。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)