つひ)” の例文
然れどもつひに交合は必然に産児を伴ふ以上、男子には冒険でもなんでもなけれど、女人には常に生死をする冒険たるをまぬかれざるべし。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そつとさし置たち出しが又立もどり熟眠うまひせし其顏熟々つく/″\打ながめ偶々たま/\此世で親と子に成しえにしも斯ばかりうすちぎりぞ情なし然どなんぢを抱へては親子がつひゑ死に外にせんすべなきまゝに可愛いとし我が子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
山茶花のつひなる花は枝ながら背きてさけり我は向けども
長塚節歌集:3 下 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これだけは蕪村ぶそんの大手腕もつひに追随出来なかつたらしい。しもに挙げるのは几董きとうの編した蕪村句集に載つてゐる春雨の句の全部である。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
東京の悪戯いたづら斎藤緑雨りよくうは右に森先生の西洋の学を借り、左に幸田先生の和漢の学を借りたものの、つひに批評家の域にはいつてゐない。
事務の人は僕の将来を気づかひ「君にして除名処分を受けん、今後の就職口を如何いかんせん」といひしが、つひに除名処分を受くることとなれり。
その頃の赤門生活 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はつひには全ユダヤを故郷としなければならなかつた。汽車や自動車や汽船や飛行機は今日ではあらゆるクリストに世界中を故郷にしてゐる。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
麦の中に芥子けしの花の咲いたのはつひに偶然と云ふ外はない。我々の一生を支配する力はやはりそこにも動いてゐるのである。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼はつひに代名詞に過ぎない。後代も亦この官吏に伝説的色彩を与へてゐる。しかしアナトオル・フランスだけはかう云ふ色彩にあざむかれなかつた。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども僕の信ずる所によれば、そこに僕等を動かすものはつひに芭蕉に及ばなかつた、芭蕉に近い或詩人の慟哭どうこくである。
続芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あらゆる近代の理想主義者たちは大抵このカルマに挑戦してゐる。しかし彼等の旗や槍はつひに彼等のエネルギイを示したのにとどまるばかりだつた。
この矛盾むじゆんい加減に見のがすことは出来ない。我々の悲劇と呼ぶものはまさにそこに発生してゐる。マクベスはもちろん小春治兵衛こはるぢへゑもやはりつひに機関車である。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし又一つには詩歌はつひに散文のやうに僕等の全生活感情を盛り難いことにもよるわけである。
のみならずつひにかう云ふ詭弁の古い貨幣になつた後はあらゆる哲学や自然科学の力を借りなければならなかつた。クリスト教は畢竟ひつきやうクリストの作つた教訓主義的な文芸に過ぎない。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然れどももし道楽以上の貼札はりふだを貼らんとするものあらば、山陽さんやうを観せしむるにかず。日本外史にほんぐわいしかくも一部の歴史小説なり。画に至つてはゑつか、つひにつくねいもの山水のみ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「文壇に幅をかせてゐるのはやはり小説や戯曲である。短歌や俳句はいつになつてもつひに幅を利かせることは出来ない。」——僕の見聞けんぶんする所によれば、誰でもかう言ふことを信じてゐる。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これ等の句はことごとく十七音でありながら、それぞれ調べを異にしてゐる。かう云ふ調べの上の妙は大正びとはつひに元禄びとにかない。子規居士は俊邁しゆんまいの材により、すこぶる引き緊つた調べを好んだ。
発句私見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すなはち人をして才人巨源を何処いづこかの逆旅げきりよに刺殺せしめたりと言ふ。あんずるに自殺にけふなるものは、他殺にも怯なりと言ふべからず。巨源のこの理をわきまへず、みだりに今人を罵つてつひに刀下の怨鬼えんきとなる。
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
同じく茶を飲むのに使ふとしても茶碗はつひに湯呑みではない。
発句私見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
Swift のつひに発狂したのも当然の結果と云ふ外はない。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)