玩具屋おもちゃや)” の例文
そして、クリスマスの晩、ロンドンの街を歩くんだ。そうすると大きな、玩具屋おもちゃやがあって、そこの飾窓ショウウィンドウに、テッディベアがいるだろう。
街の子 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
それからずっと、丁字形の縦の線に沿うては、万年筆屋だの植木屋だの、玩具屋おもちゃやだのといったいろいろの商売人が店をひろげていた。
自分は何げない顔をして玩具屋おもちゃやの店頭に立って玩具をめききする。三重子ちゃんと四方子ちゃんに玩具を送ってやらねばならない。
小さき良心:断片 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
玩具屋おもちゃやの主人は金属製のランプへ黄色いマッチの火をともした。それから幻燈げんとううしろの戸をあけ、そっとそのランプを器械の中へ移した。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見ると、それは玩具屋おもちゃやなどで売っている、あのお粗末な将棋の駒でした。そしてもう卓の上にがさがさと紙の盤をひろげてしまったのです。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
暮の二十日はつか頃になると、玩具屋おもちゃや駄菓子店だがしや等までが殆ど臨時の紙鳶屋に化けるのみか、元園町の角には市商人いちあきんどのような小屋掛の紙鳶屋が出来た。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道具屋さん、私はこのにお人形を買ってやる約束をしたんだが、この辺の百貨店と玩具屋おもちゃやをあさり尽しても、どうも気に入ったのが無いんだよ。
眠り人形 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
後者の実例は場末の玩具屋おもちゃやの店頭で見られる安絵本のポンチなどがそれである。そこには尊い真は失われて残るものは虚偽と醜陋しゅうろうな悪趣味だけである。
漫画と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わたくしはこの説に左袒さたんしているのであるが、近年神楽や馬鹿囃子ばかばやしもすっかりすたれて、お亀やひょっとこの仮面も玩具屋おもちゃやの店頭には見られぬようになった。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
最後にこの目まぐるしい叔父の子のために一軒の玩具屋おもちゃやり込まれた津田は、とうとうそこで一円五十銭の空気銃を買ってやらなければならない事になった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る玩具屋おもちゃやの飾窓の片隅に、小さな羽子板が沢山並べられていた。川部はふとそれに眼を止めた。
生あらば (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
格子の方をガラ/\と開けて這入って見ると、中見世なかみせ玩具屋おもちゃやにありそうな家作やづくりであります。
玩具屋おもちゃやの店先を通るとき、いかにも欲しそうな眼つきをしているので、ゴム毬も買いあたえた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
まち玩具屋おもちゃやから安物やすものっててすぐにくびのとれたもの、かおよごはなけするうちにオバケのように気味悪きみわるくなってててしまったもの——袖子そでこふる人形にんぎょうにもいろいろあった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
両側は玩具屋おもちゃやが七分通り(浅草人形といって、土でひねって彩色したもの、これは名物であった)、絵草紙、小間物こまもの、はじけ豆、紅梅焼、雷おこし(これは雷門下にあった)など
大方玩具屋おもちゃやですが、絵草紙屋えぞうしやなどもありますし、簪屋かんざしやも混っています。絵草紙は美しい三枚続きが、割り竹にはさんで掛け並べてありました。西南戦争などの絵もあったかと思います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あの玩具屋おもちゃやの店がランプや蝋燭ろうそくの光でまぶしいほどに照らされて、その宿屋のガラス戸越しにイリュミネーションのように見えているのを、ぼんやり見て取っていたものと思われる。
玩具屋おもちゃや飾窓ショウウィンドウには大きなテッディベアが飾ってあります。玩具屋の中から、大きな包をもった紳士が子供の手を引いて出てきました。
街の子 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
仲店の片側かたがわ外套がいとうを着た男が一人ひとり、十二三歳の少年と一しょにぶらぶら仲店を歩いている。少年は父親の手を離れ、時々玩具屋おもちゃやの前に立ち止まったりする。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ある日ハイドンは、町の玩具屋おもちゃやへ行ってあらゆる鳴物なりものの玩具を求め、それを自分の楽員達に配って、新作の交響曲を演奏させた。楽員達が仰天ぎょうてんしたのも無理のないことであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
コゼットはわれ知らず、玩具屋おもちゃやの店に並べてある大きな人形の方をじろりとながめた。それから家の戸をたたいた。戸は開かれて、テナルディエの上さんが手に蝋燭ろうそくを持って出てきた。
娘のお福は十八の年に浅草田町たまちの美濃屋という玩具屋おもちゃやへ縁付いたが、亭主の次郎吉が道楽者であるために、当人よりも親の八兵衛夫婦が見切りをつけて、二十歳はたちの春に離縁ばなしが持ち出された。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なるほど、自然の色を持った若葦の浅緑の生々いきいきした葉裏などにその夏虫のとまっている所は、いかにもおもしろい。おつでもあり、妙でもあって、とても、市中の玩具屋おもちゃやを探して歩いてもある品でない。
父は葉巻をくわえたまま、退屈たいくつそうに後ろにたたずんでいる。玩具屋おもちゃやの外の往来も不相変あいかわらず人通りを絶たないらしい。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それらの露店の一番端のものは、ちょうどテナルディエの家の入り口と向かい合いに建てられていて、金ぴかのものやガラスのものやブリキ製のきれいなものなどで輝いてる玩具屋おもちゃやだった。
斜めに見たある玩具屋おもちゃやの店。少年はこの店の前にたたずんだまま、綱をのぼったりりたりする玩具の猿を眺めている。玩具屋の店の中には誰も見えない。少年の姿は膝の上まで。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)