ひそか)” の例文
旧字:
「女主人公が、それをひそかに恋してゐる。が、勝気なので、口には云ひ出せない。その中に、一寸した意地から不和になつてしまふ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
神佛の感應かんおうまし/\天よりして養子やうしにせよと授け給ひし者成べし此家をつがせん者末頼母すゑたのもしと語合かたらふを吉之助ひそかに聞て心の内に冷笑あざわらへど時節を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
町をくにも、気のけるまで、郷里にうらぶれた渠が身に、——誰も知るまい、——ただ一人、秘密の境を探り得たのは、ひそかおおいなる誇りであった。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
燕王曰く、南軍えたり、更に一二日にしてかてやゝ集まらば破り易からずと。すなわち兵千余をとどめて橋を守らしめ、ひそかに軍を移し、夜半に兵を渡らしめてめぐって敵のうしろに出づ。時に徐輝祖じょきその軍至る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
男子なんしにも、六八ずゐ煬帝やうだい臣家しんか六九麻叔謀ましゆくぼうといふもの、小児せうにの肉を嗜好このみて、ひそかに民の小児をぬすみ、これをしてくらひしも七〇あなれど、是は浅ましき七一えびす心にて、あるじのかたり給ふとはことなり。
少女は來てありや、ひそかに下りて見よ。
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
「女主人公が、それをひそかに恋している。が、勝気なので、口には云い出せない。そのうちに、一寸ちょっとした意地から不和になってしまう。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
姉上のひそかに取りて、両手にうずたかく盛りてわがたもとに入れたまいしが、袖のふりあきたれば、喜び勇みて走り帰る道すがら大方は振り落して、食べむと思うに二ツ三ツよりぞ多からざりける。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鳳山ほうざんからの援軍も来ない上は、一度京城へ退いて再挙するに如くはなしと決して、ひそかに城を出で大同江の氷を渡って京城へと落ち延びた。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
前刻さっきから——辻町は、演芸、映画、そんなものの楽屋に縁がある——ほんの少々だけれども、これは筋にして稼げると、ひそかに悪心のきざしたのが、この時、色も、よくも何にもない、しみじみと
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実は太郎を、浦島の子になぞらえて、ひそかに思い上った沙汰さたなのであった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と裏手の方の墓原へひそかに忍び行きたりける。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)