没義道もぎどう)” の例文
旧字:沒義道
離れるものは没義道もぎどうに離れて行く。未練も会釈えしゃくもなく離れて行く。玄関から座敷に引き返した小夜子は惘然もうぜんとして、えんに近く坐った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清逸はわざと没義道もぎどうに身体を窓の方に激しく振り向けてみた。窓の障子はだいぶ高くなった日の光で前よりもさらに黄色く輝いていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
愛の冷却した夫婦の結合は不自然であるとか虚偽であるとかいう勝手な理窟りくつを附けて不条理極まる破縁を不人情とも没義道もぎどうとも思わず
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何だか存じませんが三百年前にその切支丹寺で、没義道もぎどうに殺された人間の白骨が、近所界隈の山の中から時々出て来るそうで御座います。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
、討ち取ったことでござりましょうよ。……恩にかけるではござりませぬが、かけてもよいはずのわたしの手柄、没義道もぎどうになされずにねえ主水様……
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
癇癪かんしゃくまぎれにおっぽり出して、それで命ぜられて、或いは頼まれて引受けた約束を無茶にすることほど、米友の短気は没義道もぎどうな短気ではないはずです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もらったことがねえ。それというのも、女としてのお前さんにあッしゃアたった一つのこの望みがあったからだ。よう、そう没義道もぎどうなこといわねえで——!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「龍の口へ訴え出ると申したのは、決しておどかしじゃありません。あんまり没義道もぎどうなことをされると、町人風情もツイそんな心持になるじゃございませんか」
が、こっちの働きは少しも向うへは通じませんで、向うの力ばかりが没義道もぎどうに強うございました。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたくしはそれを控えるためには女乞食から手を没義道もぎどうに振り離して逃れ去るの一手でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「だって、元来が没義道もぎどうな劉長官だ、こんなときにこそらしめておかなければ癖になる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余が千歳村に引越した其夏、遊びに来た一学生をちと没義道もぎどうに追払ったら、学生は立腹してひとはがき五拾銭の通信料をもらわるゝ万朝報よろずちょうほう文界ぶんかい短信たんしんらん福富ふくとみ源次郎げんじろうは発狂したと投書した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
案内係は、没義道もぎどうにつっぱねないが、積極的な助力は出来かねた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
葉子はどうかすると、熱に浮かされて見さかいのなくなっている貞世を、継母ままははがまま子をいびり抜くように没義道もぎどうに取り扱った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「そう没義道もぎどうに云いなさんな」ニヤニヤ笑って寄って来る。「三枚目でも役者でげす。同じ一座にいる身でさあ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彦兵衛は言うだけのことを言うと、娘と徳之助を暁闇ぎょうあんの中に残したまま、没義道もぎどうに戸をピシリと——
さりとては恨めしいほど没義道もぎどうな、口惜しいほど無分別な、どうすればそのように無茶なる夫の了見と、お浪はあきれもし驚きもしわが身の急に絞木しめぎにかけて絞めらるるごとき心地のして
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
没義道もぎどうなことをすると、お前のためになりませんよ」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かりにも没義道もぎどうに取り扱ったとは……葉子は自分ながら葉子の心のらちなさ恐ろしさに悔いても悔いても及ばない悔いを感じた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かけた机じゃアねえか。いかに不用になったとはいえ、そう没義道もぎどうに扱わねえがいい。ソレ!
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と感慨交りに厳しくことわられ、取縋とりすがろうすべも無く没義道もぎどうに振放された。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
折入っての頼み、平次もこの上は没義道もぎどうに突っ放せそうもありません。
そう没義道もぎどうに人を使うということもないと見える。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は自分の心の乱れからお前たちの母上を屡々しばしば泣かせたり淋しがらせたりした。またお前たちを没義道もぎどうに取りあつかった。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
が、没義道もぎどうに断ったならば、傍若無人のこの男は、本当に宥免状を破るかもしれない!
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
平次は没義道もぎどうにクルリと背を見せました。
そう知らず知らずいってしまって、葉子は没義道もぎどうに手を引っ込めた。倉地をにらみつける目からは熱い大粒の涙がぼろぼろとこぼれた。そして
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……だが両刀を手挾たばさむ身分だ、見込んで頼むといわれては、どうも没義道もぎどうに突っ放すことは出来ぬ。どうもこれは困ったぞ。……いや待てよ、この老人には、美しい娘があった筈だ。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
古藤は鸚鵡返おうむがえしに没義道もぎどうにこれだけいって、ふいと手欄てすりを離れて、麦稈むぎわら帽子を目深まぶかにかぶりながら、乳母に付き添った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「しかし蔦屋も気の毒だな。身上半減は辛かろう。日頃剛愎であるだけにこんな場合には尚こたえよう。それに年来としごろ蔦屋には随分俺も厄介になった。ここで没義道もぎどうに見捨ることも出来ない」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おせいはびくりとして夢のようなところから没義道もぎどうにひきもどされた。彼女はいつの間にかハンケチを眼にあてていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
分けた実の親子、没義道もぎどうのことも云われまい。よいよい過去はとがめまい。謹しむべきは今後の事じゃ。云うまでもなく神保の子息せがれ、市之丞などと申す者の事、思い出す事さえなりませぬぞ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女に引きとめられたらそんな感じがするのだろうか、その力は弱いけれども、何かしら没義道もぎどうにふりきることができなかった。今度が二度目だ。二度行ったら三度行くだろう。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そう没義道もぎどうにおっしゃいますな。ね、ね、ね、お嬢様、文三はばかではございますが、どうやら猿よりはましの筈で。……早い早い随分早い、早いお足でございますなあ。こいつアどうも大汗だ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)