水禽みずとり)” の例文
すると、何千羽とも知れない水禽みずとりが、いちどに翼をって飛び立った。面々の駒はおどろいて、幾頭かは沼水の深いところへ跳ねこんだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無数の水禽みずとりが湖心のほとりに一面に浮かんで泳いでいたが、船が近付くのも知らないようにその場所から他へ移ろうともしない。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことに六曲の左端によしの茂った水があってそこに一羽の水禽みずとりが飛んでいるのだが、その鳥の正体がどうしても分らない。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一しきり水禽みずとりの檻のあたりでぎゃあぎゃあ啼声がきこえたが、しばらくするとまたしずまった。もう朝の三時頃であろう。町の物音もすっかり静まった。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
水禽みずとりが人々の慰みのためキラキラ水玉をころがして羽ばたきをしたりくちばしで泥から餌をあさったりしている。
ロンドン一九二九年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
波は深切にわきたち、怒るがごとく打ちつけてすべての水禽みずとりの味方をし、わが銃猟家どもは退却のやむなきにいたり、町に店に、やりかけの仕事にと帰るのである。
都鳥に似たる「ごめ」という水禽みずとりのみ、黒み行く浪の上にれ残りて白く見ゆるに、都鳥もしのばしく、父母すみたもう方、ふりすてて来し方もさすがに思わざるにはあらず。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
シチューの方は小鳥類でも水禽みずとりでも獣でも何の肉でも適当しないものはありません。鳩でも鶉でもしぎでも鴨でも猪、鹿、熊、猿に至るまでシチューにすると大層美味おいしくなります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
蜀山人しょくさんじん吟咏ぎんえいのめりやすにそぞろ天明てんめいの昔をしのばせる仮宅かりたく繁昌はんじょうも、今はあしのみ茂る中洲なかすを過ぎ、気味悪く人を呼ぶ船饅頭ふなまんじゅうの声をねぐら定めぬ水禽みずとり鳴音なくねかと怪しみつつ新大橋しんおおはしをもあとにすると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふりかえると、猫間川の水が、大きな波紋をいて、とまをかぶせた小舟が一そうななめにすべって、水禽みずとりのように寄ってきた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船の周囲まわりを飛び廻わりながら、どこまでもいて来た水禽みずとりも、水蒸気の壁を境いとして、船を見捨てて翔け去って行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
地震の時、水禽みずとりをあさって食べてしまったという話の池には、今日水がなみなみと漣立っていた。キラキラ日光が揺れる。水面に二羽の鴨が盛に游泳していた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼の普通の鳴き声はこの悪魔的な笑いであったがそれでもいくらか水禽みずとりらしいところがあった。
水に沈み水に浮き、パッと飛び立ちさっと下りて来る、白い翼の水禽みずとり以外、湖面にうごめく何物もない。岸に近く咲いているのは黄色い水藻の花である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水禽みずとりが暴れているように飛沫しぶきを立てて全身を洗い、やがて皮膚をぎゅっぎゅっと拭いているうちに、彼の背なかへ、雲を破った暁の光がかすかにして来た。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沼には魚が住んでいてあしの間には水禽みずとりがいます。住民はみんなよい人です。音楽と盗みとが上手です。沢山の伝説を持っています。彼らの中の頭領は七十に近い老人です。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あとには、水禽みずとりだけが、あそんでいた。清盛は、腹が立たなかった。むしろ、よいいとまをもったように、流れで、手など洗い、曲がっている烏帽子えぼしを、まっすぐに、正したりした。
喜んで飛び乗った組紐のお仙、かいを取って漕ぎ出した。と一筋水脈みおを引き、舟はスーッと進んで行く。水禽みずとりがハタハタと舞い上がる。しかし決して逃げるのではない。舟のそばへ集まって来るのである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まるで、水禽みずとりさえずりだ……」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パタパタ! 水禽みずとりが羽搏いたのである。
怪しの館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水禽みずとり
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)