気立きだて)” の例文
旧字:氣立
むかしむかし大昔おおむかしいまから二千ねんまえのこと、一人ひとり金持かねもちがあって、うつくしい、気立きだてい、おかみさんをってました。
「色と意気地を立てぬいて、気立きだてすいで」とはこの事である。かくして高尾たかお小紫こむらさきも出た。「いき」のうちには溌剌はつらつとして武士道の理想が生きている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
気立きだて、年齢、触れた肌のかず/\、其他愚かしいことの多ければ多いほど寧ろそれを誇りとしたであらうと思ふ。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夫は心たけく、人のうれひを見ること、犬のくさめの如く、唯貪ただむさぼりてくを知らざるに引易へて、気立きだて優しとまでにはあらねど、鬼の女房ながらも尋常の人の心はてるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すいても嫌うても、気立きだての優しいおだから、内証ないしょで逢いに行っただろさ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あんな気立きだてのいい女は日本中さがして歩いたってめったにはない。婆さん、おれの立つときに、少々風邪かぜを引いていたが今頃いまごろはどうしてるか知らん。先だっての手紙を見たらさぞ喜んだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
惣次郎もお隅には多分の祝義を遣わし折節は反物たんものなどを持って来て遣る事も有るから、男振といい気立きだてといい柔和温順で親切な名主様と、お隅も大切に致し、うも有難いと思い、或日の事
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いえ、優しい気立きだてでございますから、遺恨いこんなぞ受ける筈はございません。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こゝのおかみさんは、おくみの気立きだてを哀れがつて、自分の血をけたもののやうによくして下さつた。そのときには今のあき子さんがまだ五つか六つかで、下の坊ちやんはほんの赤さんであつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
確固しつかりした気立きだて、温かいこころ……かくまで自分に親くしてくれる人が、またと此世にあらうかと、悲しきお利代は夜更けて生活なりはひの為の裁縫をし乍らも、思はず智恵子の室に向いて手を合せる事がある。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つかさんのピニヨレは何時いつも白いしやで髪から首筋を包んで居てラフワエルのいた聖母像を想はしめる優しい面立おもだちの女だが、娘はおかあさん程美しくは無いけれど気立きだては更に一層素直であるらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
気立きだてのやさしい、膚も心も美しい人じゃによって、継母継児ままこというようなものではなけれども、なさぬなかの事なれば、万に一つも過失あやまちのないように、とその十四の春ごろから、おこないの正しい
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今更じゃないけれど、こんな気立きだての可い、優しい、うつくしい方がもう亡くなるのかと思ったら、ねえ、新さん、いつもより百倍も千倍も、優しい、美しい、立派な方に見えたろうじゃありませんか。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)