段梯子だんばしご)” の例文
真黒にすすけた段梯子だんばしごを上ると、二階は六畳と四畳半の二間ふたま切りで、その六畳の方が雪子の居間と見え、女らしく綺麗きれいに飾ってある。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妹のせ細ったあおい顔がちらと目につき、口を動かそうとしたが、声が出ず、そのまま段梯子だんばしごを上がって奥の三畳に寝かされた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分も後から飛び込むと、初めてっとしたように、扉に掛金をかけました。埃だらけのその板の間に、粗末な段梯子だんばしごが付いているのです。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
初子はあきれた顔をして、穴の明くほど庄造を視詰みつめていたが、何と思ったか黙って二階へ上って行って、直ぐ段梯子だんばしごの中段まで戻って来ると
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
壁のむこう側の段梯子だんばしごがきしみ、あなたア、と甘い扶佐子の声がして、ああ、帰ってきた、とほっとしたとたん、窓の外を白いものが乱れとんだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
手を伸ばすと、寒そうに光っている廊下がれる。その廊下を出ると幅の狭い段梯子だんばしごが、二階へつづいていた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船頭は、船底へゆく段梯子だんばしごを下りて行った。上がって来た時には、火のついた火縄と、種子島銃たねがしまじゅうを持っていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与吉は?……と見れば、逃げ足の早いこと天下一品で、もう丸くなって段梯子だんばしごをころげ落ちていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕はその新聞記者を残したまま、狭い段梯子だんばしごを下って行った。すると誰か後ろから「ああさん」と僕に声をかけた。僕は中段に足をとめながら、段梯子の上をふり返った。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よけながら近松世話浄瑠璃せわじょうるりや『しがらみ草紙』や『早稲田文学』や西鶴ものなどを乱読しているところに案内も何もなく段梯子だんばしごからニョキッと頭を出したのは居士であった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ト言捨てて高い男は縁側をつたわって参り、突当りの段梯子だんばしごを登ッて二階へ上る。ここは六畳の小坐舗こざしき、一間のとこに三尺の押入れ付、三方は壁で唯南ばかりが障子になッている。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼はポケットの中でそのピストルを握りしめながら、ヤワな段梯子だんばしごを少しも音を立てないように、カタツムリみたいな速度でのぼって行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「どうぞお上り」いうて狭い段梯子だんばしごを二階い連れて行きまして、「迎いのお方はんがお越しになりました」いいながら座敷のふすまけるのんです。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
電話は段梯子だんばしごをおりたところの、ちょっと入りこんだ薄暗い蒲団ふとん部屋の外側の壁にあった。葉子も降りて来てそばで監視した。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二階の段梯子だんばしごの上からあっという間に足をすべらせた悠吉が、下まで落ちたことがある。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
億劫おっくうそうに店の奥へ引っ込んでしまったかと思うと、やがて恐ろしく手間取った末に——ヨタヨタと段梯子だんばしごでも登って屋根裏へでも行ったものか、それともあなぐらからでも引っ張り出して来たものか
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
始終遊びつけた家では、相手の女が二月も以前にそこを出て、根岸ねぎしの方に世帯を持っていた。笹村はがらんとしたそのうち段梯子だんばしごを踏むのがものうげであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
品子はそれを提げたまま狭い急な段梯子だんばしごを上って、自分の部屋に当てられた二階の四畳半に這入はいって行った。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さんざんに銀子とやり合った果てに、太々ふてぶてしく席を蹴立けたててち、段梯子だんばしごをおりる途端にすそが足に絡み、三段目あたりから転落して、そのまま気絶してしまった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
春松検校が弟子でしに稽古をつける部屋は奥の中二階にあったので佐助は番が廻って来ると春琴を導いて段梯子だんばしごを上り検校とさし向いの席に直らせて琴なり三味線なりをその前に置き
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ちょいとちょいと、面白いものを見せてあげよう。」剽軽ひょうきんな女中はバタバタと段梯子だんばしごから駈け降りて来ると、奥の明るみへ出て仕事をしているお庄を手招ぎした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三時過ぎ頃に女子衆おなごしゅあわてて段梯子だんばしごけ上って来て、「旦那さん帰って来やはりましたでエ!」いいますのんで、「えー、なんでやろこんな時分に!」と、えらいまごついてしもて
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのころの女の、もうほとんど一人もいなくなったその家の、広い段梯子だんばしごをあがって行く浅井の心には、そこを唯一の遊び場所にした以前の自分の姿が、目に浮んで来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ついに三味線をかかえたまま中二階の段梯子だんばしごを転げ落ちるようなさわぎも起った。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
真蒼まっさおになって裏の廊下へ飛出したのであったが、その時段梯子だんばしごの上まで追っかけて来たお島の形相のすごさに、取殺されでもするような恐怖おそれにわななきながら、一散に外へ駈出した。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうしている処へ、瑠美子が「まま、まま」と声かけながら段梯子だんばしごをあがって来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
銀子はまた同じうちから早い口がかかり、行ってみると、女中が段梯子だんばしごの上がり口へ来て、そっと拇指おやゆびを出して見せ、倉持の母がって話をしてみたいと言って、待っていると言うのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
足音が段梯子だんばしごにした。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)