朱泥しゅでい)” の例文
手工藝では多くのものを見ることは出来ません。朱泥しゅでい煎茶器せんちゃきを作りますが、郷土の特色を誇り得るまでには至らないでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
右の方に周囲まわり尺余しゃくよ朱泥しゅでいまがいのはちがあって、鉢のなかには棕梠竹しゅろちくが二三本なびくべき風も受けずに、ひそやかに控えている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それそれその戸袋にった朱泥しゅでい水差みずさし、それにんだは井戸の水じゃが、久しい埋井うもれいじゃに因って、水の色が真蒼まっさおじゃ、まるで透通る草の汁よ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
春蘭のしなやかな葉もやいばと刃にみえだしてくる。支那鉢の朱泥しゅでいのいろまでが、高ノ師直の肌や体臭をおもわせる。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先日の雪の絵はなかなか良いが、あの判を貴方あなたの所の朱肉しゅにくで押されてはちょっと困る。別便で朱泥しゅでいを少々送ったから、今後はそれを使ってもらいたい。それから墨もあの墨では困る。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
古渡こわたりすゞ真鍮象眼しんちゅうぞうがん茶托ちゃたくに、古染付ふるそめつけの結構な茶碗が五人前ありまして、朱泥しゅでい急須きゅうすに今茶を入れて呑もうと云うので、南部の万筋まんすじ小袖こそで白縮緬しろちりめん兵子帯へこおびを締め、本八反ほんはったん書生羽織しょせいばおり
翁が特に愛していた、蝦蟇出がまでという朱泥しゅでい急須きゅうすがある。わたり二寸もあろうかと思われる、小さい急須の代赭色たいしゃいろはだえPemphigusペンフィグス という水泡すいほうのような、大小種々のいぼが出来ている。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしは、朱泥しゅでいの徳利を取上げます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
好みし朱泥しゅでい茶缾さへい
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しばらく自分の手にした朱泥しゅでいはちと、その中に盛り上げられたようにふくれて見える珠根たまねを眺めていたが、やがてその眼を自分の横顔に移して
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の将士も、その尾について、さんざん悪口を吐きちらすと、たちまち、怒面を朱泥しゅでいのようにして、周瑜は
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人は首肯うなずきながら、朱泥しゅでい急須きゅうすから、緑を含む琥珀色こはくいろ玉液ぎょくえきを、二三滴ずつ、茶碗の底へしたたらす。清いかおりがかすかに鼻をおそう気分がした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まず、物見のらせがあるまで、英気を養っておくがいい」と、弁円も、幾杯か傾けて、朱泥しゅでいのように顔を染めていたし、他の者も、毒がまわったように、酔いしれているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北側にとこがあるので、申訳のために変なじくを掛けて、その前に朱泥しゅでいの色をしたせつ花活はないけが飾ってある。欄間らんまにはがくも何もない。ただ真鍮しんちゅう折釘おれくぎだけが二本光っている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ハハハハ、それでとうさんが帰って来てビールの徳利をふって見ると、半分以上足りない。何でも誰か飲んだに相違ないと云うので見廻して見ると、大将隅の方に朱泥しゅでい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)