星霜せいそう)” の例文
ぱっと咲き、ぽたりと落ち、ぽたりと落ち、ぱっと咲いて、幾百年の星霜せいそうを、人目にかからぬ山陰に落ちつき払って暮らしている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これだけの苦しみを受けてもまだ白状しない。私がラサ府に着いて居る時分にはそんな責苦を受けながら既に二年の星霜せいそうを経たという。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼女の第二の夫であった贈太政大臣時平の死後三十五年の星霜せいそうを経てい、彼女は当時六十歳前後、滋幹は四十四五歳に達していたであろう。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
煙客翁がわたしにこの話を聴かせたのは、始めて秋山図を見た時から、すでに五十年近い星霜せいそうを経過したのちだったのです。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一に金鐘寺または羂索院とも呼ぶ。大仏鋳造のみことのりが発せらるる十年前の造営であるから、今日まで実に千二百十一年の星霜せいそうに堪えた東大寺最古の伽藍がらんなのだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
門は再興せられてからまだ五十余年の星霜せいそうを経たばかりである。それがどうして造られ、誰が造り、如何にして完成せられたかは、今なお新しい追憶ではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
爾来星霜せいそう幾変遷いくへんせんするに従い、自分個人のみにては完全ならざることを悟り、近来真面目に人生を考うるものは、西洋人で東洋にあこがれ、東洋人は西洋をしたう有様にある。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこには山を切り開いて盆地ぼんちが作られ、そこに巨大なる大理石材だいりせきざいを使って建てた大宮殿だいきゅうでんがあったが、今から二千年ほど前に戦火に焼かれ、砕かれ、そのあとに永い星霜せいそうが流れ
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もうその邸内には浅野内匠頭も過去の人だし、その君を中心として生きていた多くの藩臣と家族もみな、星霜せいそうの移りに乗って、すべてがこの門とは遠い彼方へすがたを没していた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫁入ってたった一月ひとつき、弱まりきった彼女はまた飯倉の姉の家にかえってきた。健康が恢復かいふくして来ると、五年の星霜せいそうは、彼女には何かしなければならないという欲求が起って来た。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
弘治こうじ二年に戦没した先祖の墓は幾百年の星霜せいそうて、その所在地は知られなかった。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
星霜せいそう移り人は去り、かじとる舵手かこはかわるとも
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
が、爾来じらいいく星霜せいそう
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
限りなき星霜せいそうを経てかたまりかかった地球の皮が熱を得て溶解し、なお膨脹ぼうちょうして瓦斯ガスに変形すると同時に、他の天体もまたこれに等しき革命を受けて
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然るに、それから四十年の星霜せいそう、さま/″\な移り変りの末に世捨て人となって佛に仕えている現在の母は、どんな風になっているであろうか。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちょうど私がチベットの国境即ちヒマラヤ山中のツァーランに着いてからこの方ほとんど三年の星霜せいそうを経たが、無事に今日自由に音信の出来る国まで到達する事が出来たのは
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
北国ほっこく一のゆう柴田権六勝家しばたごんろくかついえが間者、本名上部八風斎かんべはっぷうさいという者、人穴ひとあな築城ちくじょうをさぐろうがため、ここに鏃師やじりしとなって、家の床下ゆかしたから八ぽうへかくし道をつくり、ここ二星霜せいそうのあいだ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし「伝吉物語」によれば、服部平四郎はっとりへいしろうの名を知るまでに「三星霜せいそうけみし」たらしい。なおまた皆川蜩庵みながわちょうあんの書いた「」の中の「伝吉がこと」も「数年を経たり」とことわっている。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あれから今日までに十何年の星霜せいそうを経ていると云うことが信じられないで、不思議な気がする、さっき私が妙子さんを悦子さんと間違えたのは粗忽そこつだけれども、今つくづくとお目に懸って見ても
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
吾等の寿命は人間より二倍も三倍も短いにかかわらず、その短日月の間に猫一疋の発達は十分つかまつるところをもって推論すると、人間の年月と猫の星霜せいそうを同じ割合に打算するのははなはだしき誤謬ごびゅうである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)