方向むき)” の例文
たとへば一の隊伍の、己を護らんとてたてにかくれ、その擧りて方向むきを變ふるをえざるまに、旗を持ちつゝめぐるがごとく 一九—二一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから静かに刀を抜くと、それを下段に付けたまま悠然と体の方向むきを変え、グルリ背後うしろへ振り向いて辻斬の武士と向かい合った。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
歩行者たちは後ろへ方向むきをかへた。風がうなじへ吹きつけるばかりで、渦巻く吹雪をとほしては何ひとつ見わけることも出来なかつた。
馭者は荷物を交換して、積み込み、馬の方向むきを変えた。私達はこれでやっと安心したと思いながら、あたりを見ていると、あとの方から
黄昏 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
門前の道路はこの箱馬車一台だけでも、その方向むきをかへるには容易でないと思はれるほど狭いのである。
冬の夜がたり (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこでたがいに親み合ってはいても互にこころ方向むきちがっている二人の間に、たちまち一条の問答が始まった。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「まさか先度のやうな大暴風雨にはなるまいかと思ふが、時刻も風の方向むきもよく似てゐるでなあ!」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
文鳥はすでに留り木の上で方向むきを換えていた。しきりに首を左右にかたぶける。傾けかけた首をふと持ち直して、心持前へしたかと思ったら、白い羽根がまたちらりと動いた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
広巳は何かを払い落すように叫ぶなり、ぐるりと体の方向むきをかえて井戸の方へ走りだした。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
片側町ではあるけれども、とにかく家並があるだけに、しい方向むきを変えさせられた風の脚が意趣に砂をげた。砂は蹄鉄屋の前の火の光に照りかえされて濛々もうもうと渦巻く姿を見せた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その時、前後して、とまからいずれもおもてを離し、はらはらと船を退いて、ひたと顔を合わせたが、方向むきをかえて、三人とも四辺あたりみまわしてたたずさま、おぼろげながら判然はっきりと廉平の目に瞰下みおろされた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると坐つた形のまま緩やかに方向むきを変へ、腰を折り両手を下ろし、雨漏りのする敷居の方へ延びて行くやうにいざりはじめたが——其処まで行けばわけないものを、三尺も手前の場所に動きを止めて
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「ただ今中幕が開いたばかり、団十郎の定光が連詞つらねを語っておりまする。早うおいでなさりませ」いい捨てクルリと方向むきを変えた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は少しずつ馬車の方向むきを変えはじめたが、あちらこちらへ向け直しているうちに、とうとう馬車が横倒しにひっくりかえってしまった。
しかしてこなたなる幸なく世に出でし者のおもてを汝にむけしめよ、彼等は我等と方向むきを等しうせるをもて汝未だ顏を見ず 七六—七八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「まさか先度せんどのような大暴風雨おおあらしにはなるまいかと思うが、時刻も風の方向むきもよく似ているでなあ!」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
底には裸なる罪人等ありき、中央なかばよりこなたなるは我等にむかひて來り、かなたなるは我等と同じ方向むきにゆけどもその足はやし 二五—二七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「船頭、頼む、廻わしてくれ! グルリと船を廻わしてくれ! 一巡湖水を廻わるのよ。帆綱を握れ! 方向むきを変えろ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふたりの足數合せて百とならざるさきに、岸兩つながら等しくその方向むきを變へたれば、我は再び東にむかへり 一〇—一二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
と老武士は小手を振ったがこれは鳥目ちょうもくを投げたので、投げたその手で二品を掴むとクルリと老武士は方向むきを変え
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくて彼等はかなたこなたより異なる方向むきをとりてまたも恥づべき歌をうたひ、暗きひとやを傳ひてかへり 三一—三三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「これでよろしい、方向むきをお変え! 芹沢を目指して一直線! 乗っ切れ、乗っ切れ、さあ乗っ切れ!」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼の足跡あしあとを踏み傳ひて直く進みしかれの家族やからは全くその方向むきを變へ、指をかゝとの方に投ぐ 一一五—一一七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
くるりと老武士は方向むきを変えると吸われるように潜戸くぐりの隙から戸外そとの夜の闇にまぎれ込んだ。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、にわかに方向むきを変え、樹海の方へ引き返して行った。どうやら何かに驚いたらしい。はたして松の梢から一羽の鷹が舞い上がった。そうして鳩の群を追っかけて行った。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう云って西南へ方向むきを変えて狂人のように走り出した。ダンチョンも後からついて来る。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「これでお解りでござんしょうね、四方八方へ網を張り、計りに計った妾達のたくみ! だからジタバタなさらずに、おとなしくお捕られなさいまし……オイ!」と云うと方向むきを変え
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と云うのは他でもない犬が花の上へ落ちると一緒に上を向いていた花の弁がたちまち一度に方向むきを変え逃げようともがく犬を包んでクルクルとなかへ捲き込んだのである。犬の姿はもう見えない。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
くるりと陶器師は方向むきを変えた。竈の方へ帰って行く。血刀を下げ、足もと定まらず、ヒョロヒョロヒョロと歩いて行く。蒼白の顔色、動かぬ瞳、唇ばかりが益々赤く、幽霊のような姿である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで二人は方向むきを変え、声のする方へひた走った。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)